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大女優でありながら、どこか親しみやすく、心をほっとさせてくれる女性、鈴木京香さんにインタビュー。仕事のこと、自分との向き合い方、ご自身の実感年齢、 そしてこれからの生き方について、ひとつひとつ言葉を選びながら、丁寧に語ってくれました。

「こんな役をやらせたい」と選ばれる女優でありたい

シリアスからコメディまでどんな役柄でも自在に演じ分ける鈴木京香さん。1991年、ヒロインに抜擢され、女優として大きく飛躍するきっかけとなった「NHK連続テレビ小説」に、昨年の作品ではヒロインの“母親役”として出演。デビューから今年で34年目を迎えます。

年齢を重ねることで、演じられる役の幅が広がることは、私たちの仕事のいいところ」と語る鈴木さんに、どんな女性を演じることが好きかを尋ねると、少し迷ったあとに「経験したことのない役を演じるのが楽しいですね」との答えが。

「どんな役でも好きなんです。ただ、挑戦してみたいのは演じたことのないキャラクター。ひとつのイメージに偏るのではなく、『鈴木京香にこんな役をやらせてみたい』と配役していただけるような女優でありたいですね。いくつになっても初めてのことに取り組むことはうれしいし、楽しいです」

新しい役を演じるにあたり、はじめにするのは人物像を詳細に思い描くこと。

「いただいた役の人物設定は、制作前に監督が説明くださるのですが、そこからさらに深彫りする作業がとても好きなんです。たとえば、『こんなやさしい娘を育てた母親なら、きっと考え方はこうで、所作は……』などと具体的に細かく思い描きます。それが自分の体にすっと入ってきたら、心構えができたときと言えるのかもしれません。そしてようやく『さて、セリフを覚えようか』となるんです」

自分を大切に扱う。自分が持っているものに感謝する

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いくつもの役を掛け持ちし、膨大な量のセリフを覚え、撮影は日をまたぐことも。自分の代わりはいないため、体調を崩せば多くの関係者に迷惑がかかってしまいます。

そこで気になるのが、鈴木さんの体調管理術。健康法や美容法、心が窮屈になったときに自分を取り戻すルーティンのようなものがあるなら知りたいものです。

「それがあまりないんです。もともとすごく健康な上に、さらに最近すこぶる体調が良くて、今は仕事に打ち込むにはとてもいい状態。たとえ疲れて帰ったとしても、家でのんびり過ごしているうちに、いつの間にかフラットな状態に戻れてしまう。だから、『これをすればいつもの精神状態やリズムに戻れる』ということは、あまり意識したことがないですね」

最近、SNSなどでよく見かける朝や寝る前の“ルーティン”について、「もし自分が紹介するならどんな感じかな」と考えてみたこともあるそうですが、「やっぱりないんですよね。私、がさつなんでしょうか(笑)」と実にチャーミングな鈴木さん。

ただし、どんなに忙しくても大切にしているのは、食事と運動、睡眠。サプリメントを活用することもあるそうです。

「基本的なことですが、栄養と運動と休息といった、自分にとってベストの状態を保つために死守しなければいけないことを、体がわかっているんでしょうね。これまでの経験がそうさせてくれたのかもしれません。自分の健康な体と、これまでの経験に感謝しなければいけませんね」

印象的だったのが、「自分のことをすごく大切に扱っています」という言葉。

以前は、「もっと上手に演技ができたんじゃないか」「自分の体がもっと小柄で華奢だったら、はかなげな役も演じられたのに」などと、反省したり自分にないものを求めたりすることが多かったのだそうです。しかし、ここ数年で考え方に変化が。

自分が持っているものに感謝したいという気持ちが、なんかこう、湧き上がってきはじめたんです。自己愛とは違うと思うのですが、自分が愛おしいというか、自分にあるもののなかで最大限の努力をしていければいいんだというふうに考えが変わって、自分のことをまんべんなく大切に思えるんです」

仕事、子育て、家事、友人づきあいなどで忙しいと、つい後回しにしてしまう自分のこと。「ときどきは『疲れた!』と宣言して、ゆっくりと眠ったり、自分のことをかまう時間を作ったりしてみるといいのではないでしょうか。私もそうありたいですね」と鈴木さんはやさしく話してくれました。

年齢を重ねることは誰にでも平等。不安に思わないで

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今年5月に54歳となる鈴木さん。「年齢を重ねることは、女優にとって喜ばしくもあること」としながらも、実はこれまであまり年齢を気にしたことはないのだとか。

「私、子どものころからずっと実年齢より上に見られてきたので、そもそも年齢というものを信用していないのかもしれません。年齢を重ねることは、誰にでも平等で、経験を重ねていくということでもあり、決して悪いことではないはず。もし年齢を重ねることに不安を感じている方がいるならば、うまくお伝えできるといいんですが……」

「こうあるべき、こうしなければいけない」といったルールを自分の中に作らず、自分を俯瞰するというよりはありのままを受け入れ、認める。年齢は自分が実感するもの──そんな自分にとっての実感年齢で生きる自然体の姿勢が、鈴木さんの内面からあふれる魅力となっているのかもしれません。

最後に、このインタビューのテーマである“気持ちよく生きる”ために鈴木さんが掲げることを聞きました。ひとつは「天真爛漫でありたい」ということ。

「私は引っ込み思案で、仕事でも初めてご一緒する方とすぐに仲良くなれるタイプではありません。でも私が気を遣うと、相手にも気を遣わせてしまうんだなと感じることが多いので、もっとおおらかに人とつきあいたいなと思っているんです。天真爛漫でいるって、年齢を重ねた大人だからこそ、できることかもしれませんね」

そして、もうひとつ、これからの人生で掲げているのが「勇敢に生きること」。新しい仕事には挑戦したいと思う一方で、「ためらうことも多い」と鈴木さん。

「演じたい役は多いけれど、飛び込むには勇気も必要。そんな勇気が少しずつ出せるようになってきて、自分で自分をやっとほめられるようになってきたかなという感じ。まだまだ途中ですけどね。目標でも座右の銘でもないのですが、掲げるなら自分が気持ちよく生きるために『勇敢でありたい』と今日はお話しさせてください」

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鈴木京香(すずき・きょうか)
1968年、宮城県生まれ。1989年、映画「愛と平成の色男」(森田芳光監督)で女優デビュー。1991年、NHK連続テレビ小説「君の名は」でヒロインに抜擢され、以来、映画や舞台などで幅広く活躍。第28回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(「血と骨」)ほか受賞歴多数。名実ともに日本を代表する女優として不動の人気を得る。現在、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演するほか、「サントリー セサミンEX」のCMではトレーニングウエア姿の健康美を披露している。

撮影/YUKO CHIBA

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