こころとカラダの調子にまつわる素朴な疑問に、専門家が答える連載「こころとカラダQ&A」。今回は公認心理師の佐藤セイさんが、行動を継続し、目標を達成するためのヒントを紹介します。

目標を立てても続かないのは、弱い性格のせい?

Q:新年や新年度を迎えるたびに、抱負や目標を掲げていたのですが、達成した試しがありません。それどころかいつも三日坊主になってしまい、自己嫌悪になってしまいます。行動継続のマインドをキープするコツを教えてください。

A:「心理的バリア」が作動しない目標設定をしてみては?

いわゆる“三日坊主”に陥ってしまうのは、目標に向かう行動を何らかの「心理的バリア」が妨げているからかもしれません。「行動する時に浮かぶ思考や感情の傾向」と「適切な目標の立て方」を知ることが、心理的バリアを解消し、目標達成への行動を継続するコツだと言えます。

三日坊主になるのは「FEAR」に陥っているから

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心理療法家ラス・ハリスは、著書(※1)の中で積極的に生活を変えようとするときにぶつかる4つの心理的バリアを紹介しています。以下のなかで、ご自分にあてはまるものはあるでしょうか。

1)Fusion(フュージョン)
「どうせ自分にはできない」「やっても意味がない」などの思考と自分がフュージョン(融合)してとらわれてしまう
2)Excessive goals(高すぎるゴール)
自分の持っている能力や時間などに見合わない、高すぎるゴールを設定してしまう
3)Avoidance of discomfort(不快の回避)
いつもと違う行動を取ることへの不安に襲われ、変化から逃げ出してしまう
4)Remoteness from values(価値からの乖離)
自分が本当に価値を感じていることではなく、他者の価値観や世間体を基準に行動しようとしてしまう

これら4つの心理的バリアは、それぞれの頭文字を取って「FEAR(恐れ)」と呼ばれています。 この言葉が示す通り、人は変化することに恐れを感じやすい生き物なのです。

三日坊主を乗り越える目標の立て方と継続のコツ

三日坊主にならないポイントは、先ほどご紹介した4つの心理的バリアが働きにくい目標を立てればいいということになります。さらに、継続のコツを2つご紹介しましょう。

三日坊主になりにくい目標「SMART」とは

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きちんと達成できる目標を立てようと思うとき、参考にしたいのが「SMART(賢い)」と呼ばれる指標です。目標設定における5つのポイントの頭文字をとったもので、5つを満たしていると目標達成や行動の継続がしやすいとされています。

1)Specific(具体的)
5W1Hで示すことができる
2)Meaningful(有意義)
自分自身で意味や目的を感じられる
3)Adaptive(適合的)
ゴールを達成すれば自分の生活に良い影響がある
4)Realistic(現実的)
自分の能力・時間・体力などに見合った現実的なゴールである
5)Time-framed(期限)
達成までに必要な時間や期間を決める

例えば、「資格取得のために問題集で勉強する」という漠然とした目標では、「今日は夜遅いから明日でいいや」と思ったり、「休みの日にまとめてやろう」と手を抜いたりと、三日坊主に近づきやすくなってしまいます。

しかし、以下のようにSMARTに基づいて目標を設定すれば、何のためにこの目標に取り組んでいるかを振り返りながら、無理なく勉強を続けることができ、モチベーションも下がりにくくなります。

S:毎朝6時にリビングの机で、問題集を2ページずつ解く
M:学ぶことで自分の成長を実感できる
A:資格を取得できればやりたい仕事に就ける
R:問題集2ページなら負担なくできる
T:3か月後の資格試験に向けて頑張ろう

目標を身近な人に宣言する

人の心には、注目されていると頑張りたくなる「ホーソン効果」が働いています。そのため、SMARTな目標を立てたら家族や友人に宣言するのもおすすめ。

「自分には無理かも……」とネガティブな思考にとらわれそうになったり、いつもと違う行動を取ることに不安を感じたりしても、「家族の期待を裏切りたくない」「友人からの期待に応えたい」という気持ちがモチベーション維持につながるはずです。

自分のがんばりを可視化しよう

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一生懸命に取り組んでいるのに、何の手応えもないと行動を続けることは困難です。ダイエットもそうですね。1日がんばってもすぐに変化が出るわけではありませんから「こんなことしても意味がない!」と投げ出しやすくなってしまいます。

そうならないために、試したいのが自分のがんばりを可視化すること。目標を達成した日はスケジュール帳にシールを貼る、行動した時間を計って記録するといったひと工夫で「今日はこれだけ努力を積み重ねられた」と達成感が得られ、モチベーションを維持できます。

新たに目標を立てるときやうまくいかない目標設定を見直すときはもちろん、スムーズに達成へと進んでいる目標についても折にふれて「SMARTな目標」であるかどうかを確認することも有意義だと思います。行動を起こすことを恐れず、なりたい自分への変化を楽しみながら賢く目標達成したいですね。

※1『よくわかるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー) 明日からつかえるACT入門』(星和書店/ラス・ハリス著、武藤崇監訳)
※2 ここでの「SMART」の内容は、上記ラス・ハリス氏の定義によるものです。

佐藤セイ(さとう・せい)
臨床心理士、公認心理師。精神科・心療内科、神経内科(もの忘れ外来)、リハビリテーション科、児童相談所、療育施設、刑務所などに勤務。現在はスクールカウンセラーをしながら、ライターとしても活動する。

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