おいしい料理が生まれる「キッチン」という舞台裏。料理写真だけでは伝わらない、作り手のこだわりやストーリーがたくさんつまっています。
今回、キッチンを紹介してくださったのは料理研究家・松田美智子さん。「台所で暮らしたい」をコンセプトに掲げたダイニングキッチンや収納スペースを紹介した前編に続き、この後編では松田さんの日常やこれからのことをうかがいました。
新しい暮らしのパートナーを迎え、健康意識も高まった
2021年1月に松田家にやってきたguguくん。料理教室の生徒さんたちにも大人気。
3年ほど前、現在の住まいに引っ越しをした松田さん。昨年1月、その新しい暮らしに加わったのが、ラブラドゥードルのgugu(ググ)くんです。ワンちゃんのいる生活は、実に20数年ぶりだとか。
朝は6時すぎからguguくんと近くの公園を散歩。guguくんにごはんをあげて、松田さんも朝食を済ませ、軽く掃除をしたころにアシスタントさんがやってきます。そこからは、デスクワークの日もあれば、撮影やお料理教室の日も。寝る時間以外のほとんどをキッチンで過ごします。
「guguがいるおかげで、朝早く散歩に出る習慣が身につきました。せっかくなら自分の健康習慣にもしたいなと思って、ちょっと早足で歩いてみたりしています」
朝ごはんが洋食のときは、ロイヤルコペンハーゲンの食器を使うことが多い。「ランチョンマットも素敵だけど、忙しい朝はトレイにのせると移動しやすく、準備もお片付けも簡単です」
料理研究家の方が自分のために用意する食事は気になるところですが、「私に限って言えば、たいしたものじゃないですよ」と松田さん。料理教室や撮影で使った食材の残りを活用したり、2日に1回は行くという買い物のときに食べたいものを買ったり。月に何度かは外食や自宅で客人をもてなすこともあるそうです。
料理は科学。本質を知ると、料理はさらにおいしくなる
大好物をうかがうと、少し考えたあとに「味がととのったものかな。味といっても、調味料で加減した味とは限りません。肉も魚も野菜も、お豆腐だってそう。食材の味がちゃんとするものは、やっぱりおいしい」と控えめに教えてくれました。
「忙しい日は、そのまま食べられるお刺身を買って、わさびがなければゆず胡椒やしょうがでもおいしい。そこに旬の野菜があればおかずはじゅうぶん。それも面倒なら、ごはんはちゃんと炊いて、ちょっといい玉子とじゃこでもあれば、気持ちは満たされます。最近は簡単・時短ばかりがもてはやされてしまって、抜いてはいけない肝心な手間が忘れられているように感じます。料理は科学。簡単な方程式を理解して、手を抜くのではなく、“無駄な手を省く”ことの大切さを知っていただきたいんです」
「調味料も、ちゃんと作られたものは本当においしい」と松田さん。お気に入りは左より、昔ながらの製法で作られている「岩井の胡麻油」、きちんと味が決まる「岩戸の塩」、長年愛用する「カステル ディ レゴ EXV. オリーブオイル ビアンコリッラ」。
仕事や家事と忙しい上に、コロナ禍で料理の機会が増えた女性たちにとって、「簡単・時短」は確かに頼もしい調理法の選択肢。しかし、料理の本質を知って簡単・時短のテクニックを取り入れるのと、何も知らずに簡単・時短を「正」とするのとでは、料理への理解がまったく違ってしまう、と松田さんは続けます。
すべてを日本料理に伝わる手法を用いて料理しようというのではありません。昨年12月に出版した『おすし』(文化出版局)では、日本の伝統食であり郷土料理でもあるおすしを、昔ながらの手法だけでなく、冷凍や作り置き、余ったおすしのアレンジ術といった現代のアプローチで楽しむ方法も紹介しています。
松田さんの最新刊『普段もハレの日も作りたい、家族が喜ぶ おすし』(文化出版局)より。おすしのレシピだけではなく、おすしに伝わる歴史や文化、おすし作りの道具や調味料、器の使い方、現代の調理法もあわせて伝えている(写真/鍋島徳恭)
「たとえば、こんにゃく。下処理不要とうたったものもあるけれど、塩をすり込んで水から20〜30分ゆでれば、こんにゃくから臭みと水分が抜けて、スポンジのように味を含み、シャクシャクとした食感も楽しめます。ぜひみなさんに一度きちんと下ごしらえをしてきちんと作った料理のおいしさを知ってほしい。その知識と経験は、作り置きをするときや時短・簡単で調理するときにも必ず生かせますから」
「このぐらい塩をふると魚はどうなる、このぐらいゆでた野菜の歯応えはこうなる、という経験値を自分のなかに積み重ね、作る料理に応じて使い分ければ簡単です。また、毎日何気なくおこなっている洗い物にしてもそう。洗う順番をよく考えて効率よくおこなえば、早く終わるし、水もよく切れて、使うふきんを1枚減らせるかもしれませんよ」
料理研究家を名乗る以上、料理を研究しつづけていきたい
松田さんがアシスタントさんや生徒さんに伝えるのは、下ごしらえにしろ、味つけにしろ、ちゃんと考えてやることの大切さ。
ここ数年、以前のような“ひらめき”が少なくなり、「自分の中身が薄れているような気がしてならない」という松田さん。ひらめきの源を探すため、近くの大学の社会人講座を受けようと調べたこともあったそうですが、そのときは興味を感じる授業がなかったとか。
学びたいのは、ひとつは英語。料理教室を開く前、ニューヨークに滞在していたこともあり、外国人向けに和食を教えるクラスも長くつづけていますが、自身いわく「英語はまだまだ」。また京都の料理店にお願いし、料理教室を仕立ててもらうこともあるそう。教える立場として、学ぶことの大切さも実感しているそうです。
「最近は、重い手帳をやめて、スケジュールをクラウドで管理したりとデジタルにも挑戦しています。SNSも勧められるがままに始めたんだけど、なかなか難しいですね(笑)。わからないことがあると、作業の手を止めさせて悪いなあと思いながらもアシスタントに教えてもらっています」
松田さんのInstagramでは、松田さんやguguくんの日常や、前編で紹介した調理道具の使い方、こんにゃくやごぼうなどの下処理の方法も紹介されています。
そして「やっぱり料理研究家を名乗る以上、料理を研究しつづけていきたい」と松田さん。松田さんの発信する料理の奥深さ、ほんとうのおいしさに多くふれ、毎日の食のシーンをさらに豊かなものにしたい……私たちが年頭に掲げるには申し分ない目標となるのではないでしょうか。
お花も習い、ご自身で四季折々の植物をキッチンやダイニングに生ける。「人様になにかを教える立場である以上、自分も学び続けていたい」と松田さん。この日はアイランドにさりげなくノバラの実が飾られていた。「生けるってほどではないけれど、目に入るとちょっと気持ちが楽しくなるでしょ」。
松田美智子さん
料理研究家。1955年、東京生まれ、鎌倉育ち。大学卒業後、ホルトハウス房子さんに師事。1993年より東京・恵比寿で「松田美智子料理教室」を主宰する。最新著『おすし』(文化出版局)などの多くの著書を持つほか、雑誌などでの連載多数。自身がプロデュースする調理道具ブランド「松田美智子の自在道具」も展開している。公式ホームページ
前編はこちら
撮影/小禄慎一郎
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