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この秋、初のエッセイ集となる『長谷川京子 おいしい記録』(集英社)を出版した女優・長谷川京子さん。本書は7年8か月にわたって雑誌『LEE』に掲載された連載を1冊にしたもので、食と食にまつわる暮らしがテーマです。

連載が始まったときはまだ幼かったお子さんも、今は小学6年生と4年生。子育て、仕事、家事と向き合い、子どもの成長とともにたどりついた「気持ちいい生き方」とは……。

この前編ではエッセイ執筆の背景や、日々の食のことを。そして後編では長谷川さんが年齢を重ねるなかで経験した心境の変化やこれからのことについて、お話を聞きました。

食をつづった7年半。連載は自分から申し出た

毎月1本ずつ、約7年半で書いたエッセイは91本にものぼります。

「何を書こうか、ネタ探しの毎日でした(笑)。締切が遅れがちな私を許し、励ましてくれた担当編集者さんの努力なしには続かなかったですね」とはにかむ長谷川さんですが、連載を編集部に申し出たのは、意外にも長谷川さんのほうだったとか。

「女優という作られたイメージが先行し、『生活感がない』『現実的じゃない』と言われることが多く、ちょっと寂しい気持ちがあったんです。当時は子どもが4歳と2歳になるころ。子育てや家事に奮闘する私の暮らしを書かせていただくことで、読者の皆さんとつながりたかったですし、普通に生きている私のことを知ってもらえたら……という思いもありました」

連載テーマに選んだのは「食」のこと。旬の食材を使った長谷川さんの定番料理や旅先での食事といったエピソードのほか、多いのは子どものときに食べた料理や家族で食卓を囲むシーン台所仕事をするお母様とのやり取り。読んでいると自分の中の懐かしい記憶がふんわりとよみがえり、胸がきゅんとします。

この本は、お母様の手料理の思い出話から始まります。子どものころ、「何が食べたい?」と聞かれると、決まって「コーンスープと餃子」と答えたという長谷川さん。母となり、自身のお子さんに同じメニューを作っていると「お母さんもこんな気持ちだったのかな」と思うことがよくあるそうです。

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毎年、夏には「ノルマのように繰り返し作っている」という、とうもろこしごはん。届いたらすぐ炊いて、家に遊びにきた人にも食べさせて、お弁当にも入れて、小分けにして冷凍ストックに。酒、みりん、塩、だし昆布、とうもろこしの芯を入れて炊き、炊き上がったらバターとしょうゆを加えて(『長谷川京子 おいしい記録』/集英社、撮影/加藤新作)

「父が単身赴任をしている時期もあり、母はひとりで3人の子どもの面倒をみて大変だったと思います。もちろん上手に手も抜いていたでしょうけど、『これは』という料理は丁寧に作ってくれたり。エッセイを書きながら、つくづく母の料理で育ったんだなと思い返すことが多かったですね。味だけでなく母の料理に対する姿勢も、私にしみついていると思います」

食は楽しい。でも負担や義務と思わないで

長谷川さんにとって、料理は「家族とのコミュニケーションツール」。料理をしながら、もしくは食卓を囲みながら、お子さんと会話をするのが1日で一番好きな時間だそう。仕事で遅くなる日は朝のうちに作って出かけたり、テイクアウトしたものをあたためたりして工夫しながら、できるだけ一緒に食事を楽しむ時間をつくっているそうです。

「もちろん今日はピザでという日だってありますよ。夕方に帰って準備をするときはもうバタバタですが、これだけは『何が何でも』という気持ちがあります。忙しくてもキッチンに向かうのは苦ではないですね」

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しかし、ステイホームなどで料理機会の増えたこの1~2年に、多くの女性から「料理がつらい」という声が多く上がったのも事実。自分の分だけならまだしも、子どもやパートナーにともなれば、少しでもおいしく見栄えよくと思うからこそ、余計に負担に感じてしまいます。

そこへ長谷川さんは「つらいことは、なるべくしないでほしいですよね……」と神妙な面持ちで話します。

私の場合は、好きだからたまたま料理を選んだというだけ。語弊を恐れずに言えば、私は子どもを公園に連れていくのが苦手でした。子どもが遊んでいる間に、スマホへ届いた連絡に返信をするだけでもためらわれて。『子どもを放ったらかし』って思われちゃうかもしれないって(笑)。公園で子どもを上手に遊ばせたり、すぐに仲のいい友だちを作ったりできるママがうらやましかったです」

散歩やトランプ、映画鑑賞などを例に挙げ、「どんなことでもコミュニケーションツールになり得ます。だから、料理を義務に思わないで」と長谷川さん。大切なことは、何をするにも自分の負担になりすぎないようにすること

「こちらは申し訳ない気持ちで『ピザでいい? ハンバーガーでいい?』って聞くと、子どもはむしろすごく喜んだりして。この間なんて『たまにはカップ麺が食べたい』と言われてしまいました(笑)。健康や栄養の管理は親の責任ですが、『手作りじゃなければいけない』と自分を縛らず、外食やデリバリー、テイクアウトなども堂々と活用していいと思います」

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丁寧に作ってみたくなる、長谷川さんの定番料理

料理が苦手だとしても、「作ってみたい、おいしいものを食べたい」という気持ちをふくらませてくれる長谷川さんの著書。お手製の塩むすび、豚汁、ボンゴレスパゲッティといった定番料理は、お子さんとの心あたたまるエピソードが美しい写真とともに紹介されています。

つくづく感じるのは、私たちのさまざまな思い出には食の記憶に紐づいているということ。長谷川さんによって語られる飾らない等身大のエピソードは、誰の心にも残る食の記憶に通じるはずです。ぜひ本を手にとり、あたたかな記憶にふれてみてください。

次回「後編」は長谷川さんの今、そしてこれからについてお話を聞きました。

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本書155ページより。写真で素顔の長谷川さんが垣間見られるのもうれしい(『長谷川京子 おいしい記録』/集英社、撮影/岡本充男 )

長谷川京子(はせがわ・きょうこ)
1978年生まれ、千葉県出身。女性ファッション誌の専属モデルとして活躍後、2000年に女優デビュー。以降、数々のドラマや映画、CMなどに出演。「ハセキョー」の愛称で親しまれる。2009年に第一子を、2012年に第二子を出産。2021年よりランジェリーブランド「ESS by」をプロデュースするなど、活動の場を広げている。2021年9月には雑誌『LEE』で7年半連載したエッセイをまとめた『長谷川京子 おいしい記録』(集英社)を出版。

撮影/YUKO CHIBA

後編はこちら

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