何か不安や心配ごとがある時、私たちは答えを自分の外側に求めて、逆に混乱することがよくあります。けれど自分の中にしっかり自分軸があれば、迷うことも少なくなります。

その自分軸を呼吸を通して育てるには? 前編に引き続き、呼吸・整体コーチの松永真美さんに、心と体と呼吸の深い関係を教えてもらいます。

ヨガの呼吸との違いは?

呼吸
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呼吸のことを考える時、最初に思いつくのはヨガの呼吸法、という方も多いでしょう。しかし松永さんいわく、そこには少し違いがあるそうです。


松永真美さん
松永さん

ヨガにも体の声を聞くという効果があります。でもどちらかといえば、体をコントロールすることによって精神も(コントロールする)という面が強いですよね。例えば、ヨガでは手を上げたら、それをゆっくり下ろしていきますが、それを止める行為はない。

手を上げるのを止めると、すとんと落ちます。これができるかどうかの違いは大きいんです。呼吸・整体の手法はコントロールするのではなく、体がどうしたいかを聞くというもの。

ヨガでも「体の声を聞く」ということはしますが、意識的にポーズをとった上で、いま体に起きている刺激を感じるというイメージです。

私がお伝えしているのは、そもそも体がどう動きたいのか、それを聞くというもの。それと大きな違いは、呼吸法は手段のひとつではあるのですが、みているのは普段、日常の呼吸、息遣いというところでしょうか。


これまでさまざまな食事療法を学んできたという松永さんですが、呼吸の質が変わると結果的に体に必要な食べ物が、自分で分かってくるとも話します。「体の声が聞こえるようになって、(体と)コミュニケーションが取れるようになります」

そもそも不調になってしまう根本的な原因は「感じられなくなっていること」と松永さん。忙しさを理由に、体がこうしたいとする部分を思考で押さえ込むことが続くと、いつしか体はバランスを崩します。そのような体の声を聞く時に、一番大切になってくるのが「呼吸」なのです。


松永真美さん
松永さん

まず、呼吸がラクかどうかをポイントにしてください。心は、天気や気分に簡単に左右されてすぐブレるんです。でも呼吸は嘘つかないんですよ、息が止まっていないかどうか。軸がブレないので信頼できます。


日常でコツコツと呼吸の質を上げていく

靴下を履く
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体とコミュニケーションが取れれば、体は必要なことを教えてくれる。そのために日常生活の中でも息を詰めたり止めたりせず、自然でラクな呼吸を習慣化させる。シンプルなようですが、いつも呼吸に気を配るなんて大変と、感じる方も多いかもしれません。


松永真美さん
松永さん

いきなり日常の100%がそうなることを目指さなくていいです。3割変わると、全体がコロコロと変わり始めます。例えば靴下を履く時、着替えをする時に息を止めないといった小さなところから始めて下さい。


今の習慣を一気に止めるのではなく、新しい癖づけを地道にしていくことが、挫折しないコツ。体のやりたいをキャッチして、それに応じられる自分を育てるような意識で、と松永さん。

もしも人の多い場所で神経質になって不安を感じたり、イライラしてしまったら、自分の呼吸と体の状態に意識を向けてみましょう。スマホを握りしめて肩に力が入っていたり、息を詰めていたら、握りしめたスマホを置けば、肩の力が少し抜けて呼吸もふっと通り、体もラクになります。

呼吸を変えることは、新しい家に引っ越すようなもの

バルコニー

体のやりたいように応じるとは、いつも絶好調な体であることと決してイコールではありません。不調な時にもOKが出せるかどうかも大切です。


松永真美さん
松永さん

外側の環境によって体や呼吸は影響されます。台風で気圧が低くなっている、女性なら生理が近づいている。そういう時は自然と呼吸も浅く、息苦しくなりがちです。

体調が悪い時にも無理やり同じペースで仕事しようとせずに、適当に休んでいれば、いずれ過ぎていく。不調の時もOKな自分でいられれば、結果的に心身の負担は少なくて済むのです。


思考が優勢になっている現代人は、体のシンプルな声を聞かずに物ごとを勝手に複雑にしているのかもしれません。では、実際に自分の呼吸の質が上がっていくと、どんな変化のサインが現れるのでしょうか?


松永真美さん
松永さん

まず、自分がどれだけ息を止めているかに気がつきます。次に、こんなに息を止めている自分に嫌気がさしてくる。すると息を止めるのを止めようと思う。人間って、本気で嫌にならないと変えようとしないですから。そのうち、息を止めるのをやめたことに気がつきます。


洗濯ものを干す時、食器を洗う時、髪を洗う時、日常な小さなシーンの中で、今まで息を止めていたけれど、気がついたら息を止めるのをやめていた。とても些細なことですが、これが大きな一歩なのだそう。


松永真美さん
松永さん

ある時ふと、そういえば最近頭痛薬を飲んでないとか、マッサージに行かなくても平気になったとか気づくんです。変化の段階では気がつかずに、必ず振り返って言うんです。

だから、呼吸という根本的な質を変えるのは引っ越しに似ているのかもしれません。新居に越してしばらくは慣れないけど、そのうちいつのまにか馴染んでた。慣れる段階では気づかない、そういうものみたいです。


深い呼吸が身につく~合掌呼吸法

合掌呼吸法

イスに座ってできる、深い呼吸を身につけるための呼吸法をやってみましょう。

  1. 優しく前ならえする
  2. そっと手のひらを合わせ、胸の前で合掌。この時、親指が胸の真ん中に付くようにし、ひじが肩より少し前に出るように。
  3. 背中側を膨らませ、息を送るように、鼻から少しずつ息を入れていく。
  4. 吸う息の倍くらいの時間をかけるイメージで、口から細く長く優しく、スーッと吐く。5回くらい繰り返す。

息が入ってくるとき、体幹部分が膨らみ、出ていく時にはしぼみます。この呼吸の動きによって行われる循環が要、力みにくく、不調になりにくい体へと整えてくれます。それを意識してみましょう。

私たちの命そのものを支えてくれる呼吸。日々の中で少しづつ、呼吸に気づきを向ける時間を作ってみませんか。それがブレない軸を育て、いつのまにかちょっとした不安や心配を感じにくい自分になっているかもしれません。

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松永真美さん

松永真美(まつなが・まみ)さん

呼吸・整体コーチ/マインドフルネスコーチ。東京外国語大学卒業後、出版社に勤務。学生時代にHIVに感染(現在は一切の治療をストップ)。2007年よりサッチャデーヴァ・ダース師のもとでマインドフルネスの探求を、2014年より森田敦史氏のもとで呼吸・整体の学びをスタート。現在も探求を続けている。自分、そして自分をケアすることに向き合ってきた経験を生かし、本来の自分に気づくお手伝いをしている。https://www.nowhereme.net/

イラストレーション/若山ゆりこ