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腸内環境を整えることは、美しさや健康の基盤となるもの。ヨーグルトなどから腸の働きをよくする乳酸菌やビフィズス菌を摂る人が増える一方で、いま新たな菌――「酪酸菌」への注目が高まっています。
いま若い人の間で急増している腹痛の原因や、長生きと関係しているといわれる「酪酸菌」。その知られざる働きについて、 腸内細菌研究の第一人者である慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授に聞きました。
腸内細菌は「隠された臓器」
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私たちの体内に、腸内細菌がどれくらいいるのかご存知でしょうか。長谷教授によると、その数は約40兆個、多い人で100兆個にものぼるとのこと。35兆個といわれる体細胞の数よりも、腸内細菌の数の方が多いのです。
長谷耕二教授(以降、長谷教授)
なぜこれほど多いのか。それは、腸内細菌がほとんどひとつの臓器のような活躍をしているからです。
腸内細菌は、それぞれの菌がお互いに助け合いながら、人間の消化器官だけでは消化できない食物の残りカスを発酵させ、体に必要なビタミンや、もっとも重要な短鎖脂肪酸などの代謝物を作ってくれています。
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短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維などを原料として産生する物質です。酢酸(さくさん)、酪酸(らくさん)、プロピオン酸などの種類があり、腸内の環境を整え、腸内の炎症を抑える働きもしています。
長谷教授
じつは、水分を吸収する大腸上皮細胞の7割くらいのエネルギーは、短鎖脂肪酸でまかなわれています。腸内細菌は活発に食物繊維を分解してくれることから、よく「隠された臓器」という言われ方をしますが、腸内細菌が異常になるということは、臓器の異常と同じこと。
偏食や腸内細菌の異常によって短鎖脂肪酸などが不足すると、免疫や代謝のバランスが崩れてしまいます。また異常な腸内細菌によって、体全体の健康を損なう有害物質が生まれてしまうのです。
腸内の炎症を防ぐ「酪酸菌」のパワー
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長谷教授によると、免疫機能の悪化やアレルギー、大腸がん、炎症性腸疾患(IBD)なども、腸内細菌のバランスが崩れることによって起きる疾患のひとつ。とくに日本では、炎症性腸疾患が若い人のあいだで急増しているといいます。
長谷教授
炎症性腸疾患の患者数は、ここ30~40年で300倍になりました。炎症性腸疾患は腹痛や下痢がずっと続き、一度発症するとなかなか治りません。
患者の方に共通しているのは、体内の酪酸(酪酸菌)の数値が低いということ。健常人の便からは必ず酪酸菌が検出されますが、炎症がひどい患者の便にはほとんど酪酸菌がいないんです。炎症性腸疾患は高度経済成長期から増えてきており、欧米化した食生活が要因のひとつと考えられています。
炎症性腸疾患の治療としては、酪酸を生み出す菌の経口投与が行われていると長谷教授。
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長谷教授
酪酸菌には長生きとの関係を指摘する研究もあります。100歳以上の住民が多いことで知られる京都府京丹後市では、住民の腸内にたくさんの酪酸菌がいました。一般にはまだあまり知られていませんが、酪酸菌は非常に重要な働きをもつ腸内細菌といえるでしょう。
「酪酸菌」を増やす2つの方法
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腸内の炎症を防ぎ、長生きの鍵を握るともいわれる酪酸菌。私たちが日常生活のなかで酪酸菌を増やす方法はあるのでしょうか。
長谷教授
酪酸菌を含むのは、一部のぬか漬けや臭豆腐などの食品です。食べ物から直に摂ることはかなり難しいので、酪酸菌が含まれる整腸剤が使われているのです。
ただし、食生活を改善することで腸内細菌を豊かにし、酪酸などの有用代謝物を増やすことは可能です。まずは「高マックス食」と呼ばれる食品を摂ることをおすすめします。
マックス(MACs)とは、玉ねぎに含まれるイヌリン、リンゴのペクチン、海藻のアガロース・ポルフィラン、里芋のガラクタン・ムチンなど、腸内細菌のエサとなる発酵性食物繊維のこと。オリゴ糖やレジスタントスターチ(小腸で分解されないでんぷん)もマックスの仲間です。
もうひとつの方法は、「シンバイオティクス」。乳酸菌やビフィズス菌などの生きた微生物と、エサとなる食べ物(マックス)を一緒に摂ることです。
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長谷教授
腸科学では、 生きた有用細菌を摂ることを「プロバイオティクス」、菌のエサとなり腸内環境を改善する食品成分を「プレバイオティクス」、この2つを一緒に摂ることを「シンバイオティクス」と呼んでいます。
生きた微生物と「高マックス食」を組み合わせた「シンバイオティクス」なら、もっとも効果的に腸内環境を改善できると長谷教授。腸内の「酪酸菌」を育てる新たな腸活は、今後さらなる注目を集めそうです。
長谷耕二(はせ こうじ)教授慶應義塾大学薬学部 教授。専門は免疫学、腸内細菌学。粘膜免疫系における宿主―微生物間相互作用の解析などを研究テーマとする。2014年より慶應義塾大学薬学部生化学講座教授。2010年日本免疫学会研究奨励賞、2015年日本学術振興会賞、2016年ベルツ賞(共同受賞)、2020年井上学術賞を受賞。
文/田邉愛理
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