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糖質カットは健康を損なう「水の泡ダイエット」〜京都大学名誉教授 森谷敏夫先生が説く「失敗しないダイエット」とは?

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「野菜から先に食べる」「糖質制限」など、社会現象のように広がっている人気のダイエット法は本当に正しいのでしょうか? 応用生理学とスポーツ医学のスペシャリスト、京都大学名誉教授 森谷敏夫先生は「情報に踊らされるのは危険だ」と警鐘を鳴らします。

御年68歳。30代のはじめから体重が変わらず、体脂肪率も1ケタ台をキープしているという名実ともに筋金入りのキンニク先生に「失敗しない究極のダイエット法」を教えてもらいました。

気にすべきは「体重」ではなくて「体脂肪」

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みなさんは何のためにダイエットをしていますか? やみくもに体重を落とすことをダイエットだと思っている人が多いのですが、そもそもダイエットは健康な体になるためのもの。前日計量を控えたボクサーでもない限り、減らすべきは体重ではなく「体脂肪」です。ダイエットしたことが原因で体調を崩し、将来の健康を脅かすようなことになっては本末転倒といわざるをえません。健康意識の高い人が増えているという証でしょうが、最近流行っているダイエット法には首を傾げたくなるものがあります。

たとえば、「野菜を先に食べるとやせる」という説。野菜から食べたら血糖値の急激な上昇は抑えられますが、減量効果があるという学術論文はなく、エビデンスはゼロです。「野菜から食べる」というのは2型糖尿病の患者さんのために考案された食べ方で、血糖ピークを気にしなくてもよい元気な人が減量効果を期待するのは大きな間違い。むしろ、野菜から先に食べたら満腹感を感じにくいので、食べすぎてしまう可能性すらあります。最初から主食も食べて徐々に血糖値を上げていくことが、食欲をコントロールできるよい食べ方なのです。

糖質制限は「隠れ肥満」を生む

大ブームとなっている「糖質制限」も元は2型糖尿病患者のために考案された食事法です。それがなぜダイエット法として、これほど広まっているかというと、炭水化物を食べなくなると簡単に体重が減るからです。炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質ですが、摂取すると糖質1に対し4倍の水が結合して「グリコーゲン」という物質に変わり、肝臓と筋肉に貯蔵されます。脳は1日約400キロカロリーの糖質が必要であることをご存知ですか? 炭水化物を食べていない人の肝臓には十分なグリコーゲンがないので、筋肉を分解して脳に必要な糖質を補おうとします。つまり、糖質カットで犠牲になるのは大切な筋肉だということです。

炭水化物を食べなくなると筋肉が分解され、体から水分が一気に抜けるので体重は減ります。一見、ダイエットに成功したように思えますが、これは体から水が出て行っただけで、本当に減らしたい「体脂肪」は残ったまま。ダイエットをするたびに筋肉が減って代謝も落ちますし、体脂肪が増えてよりやせにくい体になるという悪循環に陥るわけです。スマートに見える女子学生の50%が隠れ肥満(体脂肪率30%以上)か隠れ肥満傾向(25~29.9%)というデータ(日本肥満学会、機関誌)を見てもわかるように、糖質ゼロで体脂肪を減らすことはできないのです。

「目先の体重」と「将来の健康」どちらを選ぶ?

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糖質をとらないと、隠れ肥満を増やすだけではありません。体から水分が大量に出るせいで、お肌はカサカサ、髪はパサパサ。体重が減ったはいいけど、美しさとは正反対のドライフラワーガール症候群になってしまいます。その上、ダイエットしてエネルギーが足りないから、すぐに眠くなる。電車でスマホを持ったまま眠りこけている若い女性を何人見たことか。動かなくなって基礎代謝も減るので低体温や冷え性の原因にもなりますし、朝食を食べない、炭水化物をカットした食事を続けている人は脳出血のリスクが36%も高くなることもわかっています(国立がんセンター/大阪大学大学院医学系研究科 研究チーム 磯博康教授発表)。

男性44,548人を20年間、女性85,168人を26年間追跡調査した興味深いデータがあります。1日の摂取エネルギーのうち、60%を炭水化物からとっている人の死亡率を1とすると、35%しかとらなかった低糖質の人は男女とも1.5倍。炭水化物の摂取量をセーブすることは死亡リスクに影響することも判明しています(Fung T T et al. Ann Intern Med. 2010:153(5)289-298)。「糖質カット」は目先の体重だけが減って健康を損なう「水の泡ダイエット」。それでも「糖質制限ダイエット」を続けますか?

意外に思われるかもしれませんが、現代人は食べすぎて太っているのではなく、あまりに動かないから太っているだけ。厚生労働省の平成28年国民栄養調査によると、20歳以上の男女、1日あたりの平均摂取量は1878キロカロリーしかありません。現代は飽食の時代といわれていますが、終戦翌年の摂取量1930キロカロリーより少ないことからもわかるように、決して食べすぎなんかではないのです。

立つ、歩く、階段を上ることを意識する

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立ったり、歩いたり、階段を上ったりという日常の生活活動で消費されるエネルギーのことをNEAT(ニート:Non Exercise Activity Thermogenesis / 非運動性熱産生)といいます。人間の体は1日のエネルギー代謝の約4割をNEATで使うようにプログラムされているのですが、電車、クルマ、エレベーターなどの近代文明と引き換えに、私たちはNEATでカロリーを消費する機会を失ってしまいました。だから大して食べていないのに太ってしまうのです。座っている状態を1とした場合、立っているだけで1.2倍、歩くと3倍のエネルギーを消費します。とくにデスクワークが多い人は、電車で座らない、通勤時にひと駅分歩くなど、日常生活で体を動かすことを心がけてください

肥満の原因は、自律神経の乱れ

世界的な肥満研究の権威であるジョージ・ブレイ博士は、1991年に「モナリザ仮説」(Most Obesities kNown Are Low In Sympathetic Activity)を提唱し、「交感神経活動の低下が肥満の原因である」と発表しました。運動したときにはたらく交感神経と安静時にはたらく副交感神経。この2つを合わせて自律神経といいますが、慢性的に運動不足な現代人は交感神経がはたらきにくくなっています。自律神経がきちんと機能すれば、私たちの体は「食欲のコントロール」と「脂肪の分解燃焼」が自動的に行われるはずなのです。

脂肪には、エネルギーを貯めこむ「白色脂肪細胞」とエネルギーを無駄遣いする「褐色脂肪細胞」の2つがあります。食べすぎると白色脂肪細胞から「食欲を抑えろ」「やせろ」というメッセージ物質「レプチン」が血液中に放出されて、それが脳の視床下部にあるレセプター(満腹中枢の交感神経)に届くと食欲はコントロールされます。また、レプチンが満腹中枢の交感神経を刺激すると、アドレナリンが分泌され、これが白色脂肪細胞に到達すると酵素リパーゼが活性化されて「脂肪の分解」が起こります。さらに、アドレナリンが褐色脂肪細胞に届くと「脂肪を燃焼」して、そのときに体温も上げるので、冷え性になんてなりません。

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(図-体重調節における自律神経の役割)

メリハリウォーク&階段で、自律神経はよみがえる!

肥満の予防と改善のために、交感神経をいかに元気にしておくかが重要なポイントです。自律神経が低下してしまっている人も運動をすれば改善しますし、交感神経のはたらきも活発になります。さらに、運動が体にもたらす影響という観点で、最近注目されているのが「アイリシン」という分泌物です。筋肉が運動するとアイリシンが白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に似たベージュ色の脂肪細胞に変化させて基礎代謝を上げますし、脳内でもアイリシンが増加して、記憶を司る海馬に影響を与えることもわかってきました(『Nature』2012,Vol.481)。

自律神経を活発にする運動としておすすめなのは、メリハリウォークです。3分ゆっくり歩いたら、3分スロージョグか早歩き。いわゆるインターバルトレーニングというものですが、オンとオフの調整を繰り返すことで、神経系を鍛えていくことができます。また、階段を上ることは交感神経を刺激するすばらしい動きなので、今日から極力エレベーターを使わず、できるだけ階段を上るようにしてください。

糖質6:タンパク質2:脂質2が黄金比

脳と体の健康を守りつつ体脂肪を落とすためには、炭水化物を抜いたり、何かひとつの食材ばかりを食べ続けたりするのではなく、糖質6:タンパク質2:脂質2の割合で摂取することが大切です。その上で運動をするのが「正しいダイエット」。30歳を超えて何もしないと、筋肉は1年に1%なくなっていきます。筋肉を維持するために必要なタンパク質は、体重1キロに対して1.2グラムが目安。体重50キロの人だと1日最低60グラムはタンパク質をとらないといけないということです。朝はトーストだけで昼はサラダ、夜にステーキ200グラムでは、夜ステーキを食べるまでの間、みなさんの筋肉は分解が進んで蝕まれてしまいます。まとめ食べはやめて、朝昼晩3食ともタンパク質をとるようにしましょう

<体重60キロ、体脂肪率30%の人が体脂肪率20%を目指す場合>

A [現在の体脂肪の重さ] 体重60キロx体脂肪率30%=18キロ

B [現在の筋肉、骨などの重さ] 体重60キロ-A=42キロ

C [目指すべき体重] B÷80%※=52.5キロ

D [目指すべき体脂肪の重さ] Cx体脂肪20%=10.5キロ

E [落とすべき体脂肪の重さ] A-D=7.5キロ

※体脂肪率20%を目指す=現在の筋肉、骨などの重さが将来の体重の80%ということ。

毎日1時間のウォーキングをして、食事を100キロカロリーだけ減らせば、約6カ月で目標を達成できます!

食事制限をするだけのダイエットは手っ取り早くて人気のある方法ですが、我慢してやせた挙句、不健康になってしまっては元も子もないと思いませんか? 運動を避けて健康的なダイエットなどありえません。「バランスのよい食事をとって、運動すること」が失敗しない正しいダイエット。筋肉を動かすことこそが、健康、そしてダイエットの最高の処方箋です!

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森谷敏夫(もりたに・としお)先生

1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、カロリンスカ医学研究所国際研究員(スウェーデン政府給費留学)、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年から京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学で、生活習慣病の温床になる肥満のメカニズムに関する研究や運動ができない人々のための骨格筋電気刺激研究などを精力的に進めている。

山本千尋

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