逆境にめげずに「立ち直る力」。それが、とくに成長期の子どもたちにとって重要なことは、心理学や精神医学のさまざまな研究で明らかにされています。でも、大人にだって、心が折れた状態から立ち直る力は大切です。いいえ、むしろ40代になってからの方が、必要といえるかもしれません。
考えてもみてください。人生の半ばにさしかかって次々と襲ってくるかもしれない試練のことを。キャリア・クライシスやリストラ、離婚、配偶者や親しい友との死別、親の老い、老後への不安、どれも人ごとではありません。でも、多くの人びとはこれらの困難に打ち勝つためのスキルを身につけていないのが実情ではないでしょうか。だんだん心配になってきた? 大丈夫、朗報があります。
中年期だからこそ、これまで培った能力......たとえば、感情をコントロールする力や、経験を踏まえて物事を見通す判断力、次の世代に対する配慮......こうした面で優れている40代以降の人びとは、じつは若年層より立ち直る力をつけていくのに有利だと、ペンシルベニア大学でマネージメントと心理学を専門に研究するアダム・グラント教授は語ります。
また、ニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学の研究員デニス・チャーニィ博士は、2016年、デリを出ようとしたところで、不満を鬱屈させた同じ職場の元従業員に撃たれるという事件に遭遇。集中治療室で5日間を過ごしたあと、心と体を回復するための険しい道のりが待っていました。「25年にわたり立ち直る力について研究してきた私自身が、立ち直るための努力をする立場になった経験から言えるのは、前を向いて進む力はいつでもつけられる、トラウマとなる出来事が起きたあとでも決して遅くはないということです」
40代を迎えた人びと、そして、自分はまだまだと思う人にも役に立つ、今日からできる「立ち直る力を鍛える方法」を教えます。
1. 楽観的な思考を心がける
楽観的な思考は先天的であると同時に、後天的に得られる面をあわせもちます。『クマのプーさん』に登場する、うじうじと悲観的で陰気なロバのイーヨー体質の人の心の中にも、同じ森の仲間で陽気なお気楽者のティガーがきっと隠れているはず。また、楽観的であることと、辛い現実を無視することは違います。たとえば、職を失った場合など、多くの人が打ち負かされた気持ちになり「もう二度と立ち直れない」と思うでしょう。
しかし、楽観的な人というのは失職をひとつの挑戦と受けとめ、「これから色々と大変だけど、自分が目指すものは何かを見直すチャンスだし、この機会に本当に私にあった仕事をみつければいいんだわ」と考えるのです。できるだけ楽観的な思考をして、楽観的な人と交わることは大きな助けになるとイェール大学医学大学院の精神科教授も言っています。チャーニィ博士のアドバイスも、楽観主義は(悲観主義もだけれど)まわりに伝染するものだから「楽観的な人と付き合いなさい」です。
2. 自分について客観的に見つめ直す
チャーニィ博士が銃撃から回復の途上にあったとき、自分の人生はもう以前と同じではないと落ち込みました。けれど、彼は状況を整理して客観的に見直し、この不幸な事件が与えてくれたものに集中しようと試みたのです。「トラウマは一生残るでしょう。でも、私はロールモデルになれる。だって1,000人もの学生が、私が一体どうするのかを見ているわけですから。事件は、私がこれまで研究し学んできたことを実際に活かす絶好の機会となったのです」
置かれた状況と自分自身を見つめ直すことの意義については、無数の研究が明らかにしています。ある研究では、学校生活で感じる悩みや苦しみを客観的に再構築する「ものの見方」を教わった学生は成績が上がり、ドロップアウトする率も減少。ハーバード大学の研究でも、ストレスを無視する人よりストレスを糧にしようとする人のほうが、より成果を上げられたそうです。
3. 自分を責めない
苦境に陥ると「この状況を招いたのは自分が悪いからだ」「他のやり方をすれば違う結果だったかも」と後悔ばかりが先に立ち、自分を責めてしまいがち。ですが、立ち直る力を呼び覚ますために、辛い状況には自分以外のさまざまな要因が絡みあっていることを心に刻みましょう。たとえ、明らかな間違いを犯していたとしても、ただそれだけが原因ではないはずです。
「失敗の責任がすべて自分自身に帰するなんてことは、まずありません。困難な事態が起きた理由は、ひとりの個人のせいだけではないし、苦しみがいつまでも終わらないわけでもないこと、そして、逆境は後できっと役に立つと自分にしっかり言い聞かせましょう」と、グラント教授はすすめています。
4. 困難を克服した自分を思い出す
苦しいときは、戦争被害者やガンになった友人など、より辛い思いをしている人たちのことを考え、「自分はまだまし」と慰める気持ちになる場合もあります。もちろん、そのとおりですが、他の人よりも、自分自身が難しい状況を乗り越えたときを思い出すほうが、立ち直る力を強く発揮できます。過去を振り返り「もっとひどい困難だって私は克服したじゃない。だから今回もきっと大丈夫」と思うようにするのです。
かつてウォール街で役員クラスとして活躍したサリー・クロウチェックさんは、人びとの面前で派手にクビを切られたとき、家族も健康で、経済的にも今すぐ困るわけではない自分はラッキーだと思うことにしたといいます。そして、ミドルスクール時代の残酷ないじめや、泥沼の離婚劇にくらべれば、こんな事態などすぐに立ち直れると自分を信じました。いまでは、女性のための投資サイトを立ち上げて成功しているクロウチェックさん。「クビになったのは人生の1ページに過ぎないし、キャリアの終わりでもなかったわ。13歳のときの学校からみたら、ウォール街なんて全然大したことないもの」
5. 周囲の人を手助けしよう
立ち直る力の臨床研究では、苦境にあってもサポートしてくれる友人や家族がいる人ほど、困難に対処しやすいのがわかっていますが、意外にも誰かをサポートすることのほうが、本人の立ち直る力をより高めると明らかになりました。
アメリカ軍兵士を対象に行った調査によると、感謝の念や利他的な行動、目的を持つことが、立ち直る力を強化するというのです。つまり、誰かに手を伸ばして助ける行為とは内にこもった自分を外に押しだすのを意味しており、自分を強くすることにつながります。
そして、立ち直るとは、いうなれば自分の人生には意義があると感じて、行動に責任と自信を持つことにほかなりませんから。というわけで、大層な行為をする必要はありません。周囲の人へちょっとした手を差し伸べる程度で十分。誰かの役に立てる喜びが、折れないしなやかな心を育てます。
6. ストレスを上手に活かそう
適度なストレスは立ち直る力を築くのに有効です。ストレスは「悪者」という見方を変えましょう。「立ち直る力を身につける」特別コースを主催するジャック・グロッペルさんは「人間は精神的にも身体的にもストレスを必要とする生き物。ストレスのない人生はありえないし、ストレスは前進するための燃料にもなる」と断言します。ただし、激しい運動をした後に筋肉を休ませるのと同じで、時々、ストレスフリーな時間をつくるのが重要なんだそう。
5分間の瞑想や、友人とのリラックスしたランチでストレスにメリハリをつけるのがおすすめ。ウェイトトレーニングの合間に休憩をはさむことで効率よく筋肉を成長させるように、ストレスという負荷の重量を調整すれば、心の筋肉も強くなります。
7. 自分の枠を超える挑戦をする
立ち直る力は逆境で鍛えられるだけではありません。さまざまな形の挑戦に取り組むのも効果的です。ちなみにグロッペルさんは、息子と一緒にキリマンジャロに登るホリデーを計画中とか。トライアスロンに挑むのもいいし、詩作発表会に参加して自分の中の詩人の才能を発掘するのもいいでしょう。
要はこれまでに経験したことがないもの、限界を超える何かにチャレンジして、新たな種類のストレスを自分にかけるのがポイントです。
© 2017 The New York Times News Service
[How to Build Resilience in Midlife / 執筆:Tara Parker-Pope](翻訳:十河亜矢子) photo by Gettyimages
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