スーパーで安売りしていたからとたくさん買った野菜。結局、全部使いきれず、ムダにしてしまった……そういう経験はだれしもあることでしょう。かく言う私も、さまざまな野菜を何度もダメにし、そのたびに罪悪感を抱いてきました。

旬の野菜を「保存食」にして活用

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野菜の保存食で毎日のごはんがすごく楽になる』(立東舎)の著者で料理家のスズキエミさんは、東北の米農家に生まれ、自宅用にと野菜も育てていたことから、食べきれない野菜は保存し、あとでいただくことが生活の中でごく当たり前だったといいます。

今は野菜も冷凍食品がありますが、せっかくなら季節感のある食事をしたいもの。この時期だと、きのこや大根、白菜、ごぼう、れんこん、さつまいもなどが多く出回っています。スズキさんは、四季折々の旬の野菜をオイル漬けやみそ漬け、切り干しなど「保存食」にして、いろいろな料理に使っています

最近は、食の分野では「インスタ映え」ばかりが注目され、本来の「食べること」の重要性が忘れられつつあるようにも感じます。こうした状況について、そして旬を意識することの大切さについて、スズキさんにお話を伺いました

保存食は、できることからはじめてみる

――『野菜の保存食で毎日のごはんがすごく楽になる』では、いろいろな保存方法が紹介されていますね。

米酢に砂糖や塩などを混ぜたものに野菜をつける「酢漬け」やみそ漬け、天日で乾かす干し野菜は、実家でもやっていたものです。オイル漬けは、以前、イタリアンレストランで働いていたことがあり、それがきっかけで始めました。

――保存食と聞くと、いろいろ下ごしらえが面倒なんじゃないかと思う人も多い気がします。

保存食はもともと農作業の合間に作るものです。私自身も、農作業の合間に行う保存食作りを見て、一緒に手を動かしながら覚えました。そんな合間に作る保存食作り、本当は大変な作業ではないのです。
例えば、料理に使ってちょっと余ったきゅうりや大根をざるに並べて天日干しすれば、それは干しきゅうりや干し大根として、立派な保存食になります。実は干し野菜は日光だけでなく、風通しも大事なので、むしろ今ごろの時期のほうがうまくできたりするんですよ。

――なるほど。とにかく難しく考えず、できるところからやっていけばいいんですね。

ええ。私は東北で生まれ育ちましたが、昔、北海道や東北など寒冷地に住む人たちは、冬を越すために、夏〜秋にとれた野菜を大事に食べようと保存食をつくっていたわけです。つまり、保存食は命をつなぐためのものだったと思うんです。だから、今、都会に住んでいる人たちが考える保存食と、私が思うそれとはちょっと意味合いが違うのかもしれません。

最近は、料理というと見映えが良いものが好まれる傾向にありますが、大切なのはそこではなく、食材を最後までちゃんといただくということなんですね。だから、私は保存食でもなんでも、全ての食材をありがたくいただくことを心がけています。野菜を大切に食べる事を教えてくれた家族に感謝しています。

毎年、旬の野菜を味わうことで健やかに

――ところで、スズキさんは「これは毎年つくっている」という保存食はありますか?

夏になると必ずケチャップをつくります。それから、ゴーヤの酢漬けもしますし、キュウリやズッキーニ、大根などいろんな干し野菜もやりますね。
それから、これは欠かせないなというのはみそです。実家にいたときは4年に1度ぐらいの割合で、人が入るぐらいの高さの大きな樽でみそづくりをしていました。上京してからもしばらくは実家から送ってもらっていましたが、途中から自分でつくるようになりました。

――みそは面倒を見るのが大変じゃないですか?

私は意外と放っておいているんですよ。実家でもそれほどこまめに面倒を見ていなかったので。保存食って「こうじゃなきゃダメ」みたいなことってあんまりないと思うんです。もっと大らかな気持ちでつくってみていいんじゃないでしょうか。環境によってみそはカビることもありますけど、それを取り除けばいいわけですし。

――みそに限らず、保存食についてそういう気持ちで考えると気が楽ですね。

ところで、『野菜の保存食で毎日のごはんがすごく楽になる』に続いて出版された、『四季を味わうにっぽんのパスタ』(立東舎)でも保存食が使われていること、そして四季をまるごと味わうことという点でつながりを感じました。

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日本に住んでいたら、やっぱり季節感は意識せずにいられないと思うんです。そして、旬の野菜はその時期、人間のからだに不足しているものを補ってくれます。例えば、「五月病」ってあるじゃないですか。そのころによく採れるレタスには、気持ちをリラックスさせる効果が期待できる成分が入っているんです。そんなふうに野菜と人間のからだの関係はうまくできているわけですから、やっぱり料理をするときにも季節や旬を無視できないと思うんです。

――本当ですね。食生活を考えるいいきっかけになりました。ありがとうございました。

「保存食」を使った料理を実食!

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そしてインタビュー終了後、『野菜の保存食で毎日のごはんがすごく楽になる』に掲載されていた、れんこんの酢漬けを使った「肉団子の春雨スープ」と「れんこんときびのナムル」。そして、「まいたけとかぼすのスパゲティ」をふるまっていただきました。

れんこんの酢漬けは、そのまま食べても酸味はそれほど強くなく、むしろさっぱりとした印象。「肉団子の春雨スープ」は、肉団子にきざんだれんこんが入っていましたが、ほどよい酸味が食欲をそそる一品でした。

また、「れんこんときびのナムル」は小松菜とれんこんの酢漬けをゴマ油やすりおろしたニンニク、薄口しょうゆなどの調味料であえたもの。保存食がひとつでもあればさまざまに活用できるので、食事の準備が楽になりそうです。

一緒に出していただいた「まいたけとかぼすのスパゲティ」は、かぼすを使っていることもあってか、れんこんの酢漬けを使った二品とピッタリ。こちらもおいしくいただきました。

日本だからこそ楽しめる、四季折々の味。それはおいしいというだけでなく、私たちのこころとからだを健やかにしてくれるようです。今すぐ食べられないときは、まずは簡単なところから保存食をつくってみましょう。ちなみに私は干し大根に挑戦中。少しずつ乾燥していく様子にワクワクしています。

20171113_suzuki4.jpgお話を伺った方:スズキエミさん

料理家。宮城県の米どころに生まれ育つ。レストランやカフェに勤務後、料理家として独立。『野菜の保存食で毎日のごはんがすごく楽になる』『四季を味わうにっぽんのパスタ』など素材の持ち味を生かしてていねいにつくる、季節感たっぷりのレシピを雑誌や書籍で提案している。

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