【前編のあらすじ】
渋谷・桜丘町にあるオーガニック&自然派カジュアルレストラン「デイライトキッチン」の店主の塚本サイコさんに、オーガニック食についてお話を伺いました。後編となる本記事では、なぜヘルシー思考へとシフトしたのかなど、歳を重ねて変わる環境に身を任せながら、現在に到るまでを語っていただきます。
カフェブームを牽引した"プラスのヘルシー"思考
「結局、あの頃の私にとっての"ヘルシー"というのは、あれだったんです」
去る2000年頃、東京を中心に巻き起こったカフェブーム。オーナーの個性あふれる刺激的なお店がぞくぞくと生まれるなか、塚本サイコさんがつくったアジアンスイーツをいただけるカフェ「デザートカンパニー」は、行列が絶えないほどの、すさまじい「熱」を呼び寄せました。
お店の人気の理由のひとつは、それらがすべて、手作りで提供されることでした。
「それしか選択肢がなかったんです。注文を受けるたびに白玉を一からこねて、提供するのに10分以上かかる、というのは飲食店ではありえないのに、そうするものだと思っていたんです。普通に母親がしてくれたように」
母から教わったこと、自ら気づいたこと
そう、今の塚本さんがあるのは、母親からの影響がとりわけ大きいとか。
「ピアノの先生だったんですが、食へのこだわりがすごくて。あの高度成長期時代に電子レンジも使わず、洗剤も手作り、パンも自家製。それから本気の薬膳料理に興味を持ったことも、母の影響でした」
約3年後、塚本さんはより「商品としての食」をきわめるためカフェをクローズ。代わってプリンや杏仁豆腐などのデザート工房と、母親といっしょに薬膳料理のお店をはじめます。
「どんどん素材のほうを見ないと、と思って、いろいろ突き詰めていくうち、ある事実に気づいたんです。それはカラダにいいと言われている食材も、農薬を使うなど、栽培過程においては決してヘルシーだとは限らないということ。そうしてプラスの思考から、そぎ落としていくマイナスのヘルシー思考へと変わっていったんです」
人の能力を思い知った"出産"という経験
さらにその後結婚をし、子どもを授かったこともまた、さまざまな自らの気づきにつながったといいます。
「私にとっての30代は、店を持ってバリバリ仕事をして、何人もスタッフを雇って、悩みごとを朝まで聞いて、という人生だったので、40を過ぎたあたりで、そろそろ自分のことを考えようって思ったんですよね。あと、子どものことも突然焦って。結局、42で産めたんですけど。原始的な意味あいでいうと、人ってすごい能力が備わっているんだな。それって、食に支えられているんじゃないかなと思ったんですよね」
片や。切実な問題として、自然分娩ができなかったことは、塚本さんに少なからずショックをもたらしました。
「人間の本来的な機能が弱まっているんだな、とも感じたんです。昔の人たちはすごかったんだな、と。世の中これだけ便利になっているけど、これからは、その原始的な感覚を、取り戻すことが必要だなって」
そして移住へ。自然に、当たり前に
自分が強く生きていくための食。子どもが健やかに育つための食。そういうすべてに、ちゃんと向き合うこと。これが塚本さんを、神奈川と山梨の県境のある旧藤野町という地方への「移住」の道へと導きました。
「きっかけは、子どもをシュタイナー教育で育てたいと思ったこと。折しも夫の実家のある旧藤野町に、シュタイナーの学校があることを知って。そうなると、仕事場から遠いとか近いとか、ここでやるとか、どこでやるとか、そういうこともだんだんなくなってきて。住んでいるのは高尾山よりも標高の高いところなんですが、不便なんじゃないかという心配も、全然自分の中には入ってこないというか。ここで暮らしていく。でも、東京で仕事もするし、子どもをシュタイナー教育の学校に入れる。それらが全部決まっていたことのように、自然の流れで決まっていったんです」
旧藤野町を選んだのは、物理的な理由からですが、この町は新規移住者や就農者がとくに多く、地域再生が活発に行われているエリアでした。
「当たり前にビオ市が開催されていて、料理上手のお母さんがたくさんいるので、手作りしたものを販売している。もちろん、東京もファーマーズマーケットは生活に根付いているけど、藤野だとより一層暮らしのなかのものを、ふつうに買いにくる感覚。あまりに当たり前すぎるから、忘れちゃうこともあるくらいで」
しかしそれが東京にくると、もちろんそれは、当たり前ではない。
「その当たり前が、実はすごく豊かなことなんだということを、東京にいる人たちに伝えていきたい。そして、どこで暮らしていても、オーガニックが当たり前になる世の中を作っていきたい。そう思っています」
自分のカラダを作る「食」を軸にしながらも、仕事、結婚や出産、そして暮らす町を通じて、少しずつ、でも確実に。自分がひとつの「答え」に向かっていると感じる塚本さん。
社会活動と、経済活動と、生命活動を一致させること。
誰かの、何かにとらわれない、自分の中の宇宙を知ること。
そうした個としての気づきが、やがて自然と、社会への影響を及ぼすこと。
塚本さんは言います。
それは決して難しいことではなく、きっと誰もがたどり着ける場所だと思います。
撮影/内山めぐみ 文/山村光春(BOOKLUCK)
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