「オーガニック」と言っても、どこまでそれを突き詰めるかはさまざまです。誤解を招くかどうかは別として、ビジネス視点で「オーガニック」の道を切り拓こうとする者もいれば、カラダのことを考え、真摯に向き合った結果、そこにたどり着く者もいます。

そこで、本インタビューでは「食」を通して未来の姿を見つめる注目の人物、オーガニック&自然派カジュアルレストラン「デイライトキッチン」を切り盛りする塚本サイコさんにお話を聞かせていただきました。

人間本来の感覚を「食」で取り戻す

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左上/「農地から直送 大地の恵みのファーマーズサラダ」1,500円(税込)、右/「ジオファームマッシュルームの玄米リゾット」1,600円(税込)、中/「在来種・固定野菜のバーニャカウダ」1,500円(税込)

「それを食べて、自分がどう感じるのか。この食材はカラダのどこにいい、といった"情報としての食"ではなくて。五感やインスピレーションを研ぎ澄ませる役割が、食にはあるんじゃないかって」

渋谷・桜丘町にあるオーガニック&自然派カジュアルレストラン「デイライトキッチン」。店主の塚本サイコさんは、その感覚を「取り戻していく」という言葉を使って語ってくれました。

「きっとそれは原始的な、人間が本来持っていた感覚。そんな本能を取り戻していくための『食』だということに、私自身が気付いたんです」

母親たちからの絶大な支持を得た理由

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植物がほうぼうに繁るテラス、店内の隅ずみまで掃除が行き届いた空間、ゆったりしつらえたテーブル。目を細めたくなる、美しく差し込む光。しかしながら気持ちよさを感じる主役は、全国の契約農家さんから届けられる、無農薬・有機栽培の野菜たち。さらに国産のお肉、お魚、乳製品も厳選したものを使用。安心安全のストーリーが、すべてに、ふんだんにあふれていました

塚本さんがこのお店をはじめるきっかけとなったのは、具体的なきっかけは、伝統の古来種、在来種の野菜を守る活動をするジョン・ムーア氏との出会いから

「種のことを教えてもらいました。きゅうりは、スーパーに売ってるきゅうりだけじゃなくて、地場の風土に合ったものが日本全国にたくさんあって。人間はずっと地のものを食べて、自然とともに生きてきたわけで。そういう感覚みたいなものが、いまの子どもたちにとっても、当たり前になればいいなと思ったんです」

そして、全国の「種を守り、継いでいる」農家さん探しの旅が始まります。

「より、原種に近い品種を求めていました」

たとえばお米には、ササニシキをはじめとする「ササ系」と、コシヒカリをはじめとする「コシ系」があり、より原種のうるち米に近いのはササ系。しかし今の世の中的には、もちもちっとした歯ごたえのあるコシ系が全盛。

苦心しながらあれこれ探していると、岩手県の遠野という地で、馬と育む自然の暮らしを取り戻そうと頑張る農家さんにたどり着きます。

「そうして交流が生まれたちょうどそのとき、3.11の震災が起きたんです」

ようやくつながった電話口で、その農家さんが放ったひとことが、塚本さんは忘れられないといいます。

「『いや、もういいです。逆に使わないでください』って。彼らにもお子さんがいて......。そこからは、農家さんと飲食店という枠を超えての、より深いお付き合いが生まれました

ただこれをきっかけに、食材はすべて西日本産に切り替えるだけでなく(現在は全国に戻っている)。有機栽培の農家さんに限定するなど、さらに選定をきわめます。するとカヒミ・カリィさんや、モデルの日登美さんもふくめ、お子さんを持つお母さんたちからの絶大な支持を得るように。

「そうして、いろいろな農家さんの思いをうかがいながら、関係を続けていくなかで感じたのは、在来種、固定種を使って栽培する農家さんは、みんな『どうしてそれをやるのか』という動機があるんです」

その動機や思いに共感し、より多くの人と共有すること。

「『おいしいから』とか『栽培が上手だから』とかも、もちろんなんですけど、結局大事なのは、農家さんがどんな思いを持ってやっているのか、その背景を知ること。それを東京でお客様に伝えていくのが、すごく重要だなと思ったんです」

お店を、心を美しくするルールと法則

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さらに「デイライトキッチン」が大切にしているのは、掃除。ときにはありえない時間をかけて、厨房からトイレまで、隅から隅までまで磨き上げます。また洗剤も塩素系は控え、重曹やクエン酸などの自然由来のものしか使わないのも、約束ごと。

「みなさん、びっくりされます。人件費を何時間も掃除に費やすとか、ハイターを使わないとかって、飲食店の常識では考えられないと。でもある日、辞めていった女性スタッフから『食材もですけど、お掃除がこれだけやってきたのがすごいと思います』というメッセージをもらったんです。別のお店で働いて、初めて気づいたみたいで。やっぱり、すごくうれしくって」

また、新しいスタッフに卒業したスタッフが掃除を教えるなど、いい循環も生まれているという。

「そういう取り組みは、やっぱりお客さんにも伝わりますね。農家さんのところに頻繁に行ったり、掃除を徹底的にやるなど、積極的にしていた時のほうが、実際に売り上げもいいですし、人材も育っている。ちょっと売上げが落ちてきたから、もっとこっちやらなきゃ、となると、負のスパイラルに陥っていく。それは法則的なこととして、あると思います」

より心と心を交わし、選りすぐられた食を、心ごといただく。それが習慣になることによって培われる、人間という生きものが本来持つ、確かな力。それを塚本さんは、身をもって実感している。

それは何を食べてどう体に取り入れるか、だけでなく。どこの町で、どんなふうに暮らすか、どんな仕事をするか。すべてつながっていて、私たちはそんな日々の選択をするなかで、自然とひとつの真理に、おのずから気づかされる。そう、塚本さんは言い切るのでした。

(後編につづく)

day light kichen(デイライトキッチン)

住:東京都渋谷区桜丘町23-18 ビジョナリーアーツ1F
営:ランチ/11時〜15時 カフェ/15時〜18時(L.O.17時) ディナー/18時〜22時30分(L.O.21時30分) 

塚本サイコさん

1998年、当時渋谷系と呼ばれたインディーズレーベルに所属しながら、音楽活動と平行し、知人から誘われて表参道に29歳で開業したアジアンスイーツカフェ『デザートカンパニー』がカフェブームの火付け役となりヒット。一躍有名店の仲間入りを果たす。自身の実体験を元に書いた『カフェをはじめたくなる本、カフェをやめたくなる本』がある(ギャップ出版/山村光春との共著)。2006年、渋谷区桜丘に新しく開校したビジョナリーアーツ東京校の1Fで、新しいカタチの学生食堂『森のガクショク』をプロデュース、運営を受託。2010年7月、森のガクショクを収益事業に移行させるかたちで「大人も子どもも一緒に楽しめる」をコンセプトに据えた自然派カフェレストラン『デイライトキッチン』をオープンさせた。2015年6月、社員の方々の多くがデイライトキッチンのお馴染み様であったスマートニュース株式会社の社屋移転に伴い、社員食堂を受託。100%オーガニックを目指す世界ではじめての社員食堂として『世界一の社員食堂』プロジェクトを掲げ、頭脳のアスリートであるエンジニアの方々のパフォーマンスに貢献するべく、日々切磋琢磨している。

写真/内山めぐみ 文/山村光春(BOOKLUCK)