ふっくらと炊き上げた、あつあつツヤツヤの米。新米も出回り、より「お米愛」が高まる季節です。

ハイスペックな炊飯器も続々と登場していますが、おいしさにこだわるなら、米そのものについて今一度おさらいしてみてもよさそう。炊飯の工程はシンプルなだけに、米の研ぎ方や保存法のひとつひとつを意識することで、今までとは違った味わいに出会えるかもしれません。基本となる米の産地や種類から、おいしい米の研ぎ方、水加減などをまとめてみました。

日本人の食生活を支える「米」にまつわるあれこれ

171016_rice_1.jpg今回、米についてお話を伺ったのは、伊勢丹新宿店本館地下1階のシェフズセレクションで米売場を担当する廣田実央さん。食に興味を持ち、大学では米について学び、米の品種改良にも携わっていたほどの知識の持ち主。お母様譲りの料理好きも手伝って、店頭では米のおいしい食べ方やアレンジに至るまで、さまざまなアドバイスをおこなっています。

ではさっそく、おいしい米とごはんの基本について教えていただくことにしましょう。

Q1. 米にはどんな種類があるの?

171016_rice_2.jpgA. 日本における米の品種は、数百にものぼると言われています。流通しているもののなかで多く栽培されているのは「コシヒカリ」がダントツ。2位以下の「ひとめぼれ」、「ヒノヒカリ」、「あきたこまち」はコシヒカリの子どもたち。日本でいかにコシヒカリが愛されているかがわかります。

米といえば、以前は「コシヒカリ」と「ササニシキ」が人気を二分していたものですが、病気に弱い「ササニシキ」に代わって開発されたのが「ひとめぼれ」。ただ、「ササニシキ」の人気は根強く、その食味はそのままに、病気に強い品種がいくつかできているのだそう。

Q2. 米作りに適した土地とは?

A. いわゆる「米どころ」以外でも米は全国で作られています。売場で最も多いときには、北海道留萌市産の「ななつぼし」から沖縄県石垣島産「ひとめぼれ」までラインナップ。もっとも有名な品種「コシヒカリ」は、特に「新潟県魚沼産」が有名ですが、実は全国的に作られています。ただ、沖縄や九州南部、青森以北では気温面で栽培が難しくコシヒカリは作れられていないそう。

水と土壌、気温が大きく関わる稲作。同じ東北産でも、青森を境に米の味はガラリと変わるそう。秋田まではコシヒカリのようなもっちり粘りのある米、青森以北はあっさりとした米が特徴。「青森を境に、食べ比べるのもおもしろいですよ」と廣田さん。さらにもうひとつヒントとして、コシヒカリを地域ごとに食べ比べるのもおすすめだそうです。

Q3. 米の品種によって味わいはどう違う?

171016_rice_3.jpgA. コシヒカリは香りが豊かでツヤツヤで甘く、もっちりとした粘りがあるのが特徴ですが、南にいくほど粘りが少なくあっさりしてきます。ひとめぼれはササニシキに代わって作られたとお話ししましたが、味わいはコシヒカリ寄り。コシヒカリを「重い」と感じる方は、あっさりした「ななつぼし」や「青天の霹靂」がおすすめ冷めてももっちりしておいしいといわれるのが「ミルキークイーン」「つや姫」は、炊きあがりの色が白くてきれいですよ。

廣田さんのご自宅には、常時3~4種類の米があり、料理によって炊き分けているそう。カレーの日はあっさりした米を硬めに炊き、おにぎりや炊き込みごはんにはもっちり感のある「ミルキークイーン」、手巻き寿司には「青天の霹靂」、上等なたらこが手に入ったら新潟の「コシヒカリ」……。真似してみたい、なんとも贅沢な楽しみ方です。

<料理・用途別、米のおすすめ一覧>

・カレーやチャーハン……あっさりした米を硬めに炊く、精米から日数が経った米

・炊き込みごはん、まぜごはん……ミルキークイーン

・手巻き寿司……青天の霹靂、ななつぼし

・米を主役にするなら……新潟県産のコシヒカリ、つや姫

Q4. 最近デビューした注目の新しい米は?

171016_rice_4.jpgA. もっとも新しいのは、9月に福井県がデビューさせたばかりの「いちほまれ」。コシヒカリの玄孫にあたり、ふっくらとした食感で、噛むほどに甘みを感じるのが特徴。さらにこちらの売場でご紹介したものを新しい順で挙げると、昨年デビューの新潟県産「新之助」、2015年の青森県産「青天の霹靂」、2010年の山形県産「つや姫」となります。

新品種を作る仕事にも携わっていた経験から、廣田さんは「新しい品種をデビューさせるのは並大抵の努力ではできない」と話してくれました。米は1年に1度しか収穫できません。品種をかけあわせ、育てて、食べて、それを繰り返すため、時には10年もの歳月を要することも。品種改良をして、量を生産できて、きちんと流通できるようになったら晴れてデビューとなります。

Q5. 新米、古米、古々米の定義は?

A. 一般的には「新米」と呼ばれるのはその年のうちです。新米が獲れると、それ以前の米は「古米」に、さらに前の年の米は「古々米」となります。ただ、米がもっとも苦手とする湿度が高い梅雨を越えた米を古米と言ったりもするので、ひとつに定義するのは難しいのですが。古々米は食感が硬いので、あえてお寿司に使われることもあるんですよ。

待ちに待った新米の季節。多くは9月に稲刈りがされて私たちのもとに届くのは10月ぐらいになりますが、気温が高いと稲が育つのが速いため、沖縄は7月、熊本あたりは8月には新米が出るそうです。

Q6. 精米したてのほうがおいしいの? おいしさの期限はある?

A. 精米したてが一番おいしいと言われています。精米されたその日から米表面の酸化が始まり、時間が経つほどに硬く食感が変わってしまいます。精米とは、玄米をついてぬかを取り除くことなので精米日から、できれば1カ月以内……、本当は2週間以内で食べていただきたいですね。あまり大きな袋では買わず、2週間~1カ月で食べきれる量を目安に買う、買いだめはしないようにするのがおすすめ。1キロから精米してくれるお米屋さんを利用するのもいいですね。

Q7. 米がおいしくなる正しい研ぎ方は?

A.米を洗うとき、はじめに入れた水はすぐに捨てること。乾いた米はすぐ水を吸うため、最初のぬかくさい水を吸わせないように。次にたっぷりの水を加えたら、力を入れずにグルグルと米を掻きまわし2~3回水を換えるだけ。昔は表面にぬかがたくさんついていたため、手のひらで押し付けるようにしてゴシゴシ洗っていました。「今は精米の技術も進み、とてもきれいですので軽くで大丈夫なんです」と廣田さん。

Q8. 米の正しい保存法、残ったごはんの保存法は?

A. 米の保存は冷蔵庫のチルドルームがおすすめです。ただし、米はにおいが移りやすいので、においが強い食品の近くには置かないように。米の賞味期限は厳密にはありませんが、おいしく食べたいなら精米から1カ月を目安に保存しましょう。

また、炊いたごはんの食べ残しは、冷凍がおすすめ。まだ熱いうちにラップや密閉容器に移し、粗熱がとれたら冷凍庫へ。炊飯器で「保温」したままでは味も落ち、嫌なにおいがしてしまうことも。1食分ごとに分けて冷凍すると、ちょっと食べたいというときにも便利です。

Q9. ごはんをおいしく炊く浸水時間、水加減は?

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A. 研いだ後の米の浸水時間は夏で30分、冬は1時間が理想的。長ければ長いほどいいわけではありません。水につけておくよりも”ざる”にあげて浸水させたほうが私はおいしいと思います。炊きあがったら、すぐに全体を軽く混ぜるとふっくらと仕上がります。「すぐ」というのがポイントで、時間が経ってから混ぜてもあのふっくら感は出せません。

新米は水分が多いので、水加減は少なめに。無洗米は少し硬いので手間でも一度水ですすぐ、もしくは浸水を長めにする、水加減を多めにするといった工夫が必要です。

炊飯器の釜についている目盛りは一般的に「コシヒカリ」向け。いろいろ試して米の品種によって、自分にとってのベストな水分量を見つけてみましょう。また、炊飯器の性能にもよりますが、3合炊きの炊飯器で炊くのは2合まで。少し少なめにするのがおいしく炊ける気がします。逆に5合炊きの炊飯器で1合というように少なすぎるのも上手に炊けないこともありますよ。

<米の種類と料理に適した水加減>

・新米……水加減は少なめ、浸水時間は短めでもよい

・古米、無洗米、玄米……水加減は多め、浸水時間も長めに

・寿司、おこわ……水加減を少なく、かために仕上げるとおいしい

Q10. 自分好みのおいしい米を探すコツは?

171016_rice_5.jpgA. お米屋さんや店頭で好みを伝えて聞いてみるのが一番です。私は店頭で、いつもどんな米を食べているか、どんな米を食べたいかをお聞きします。「やっぱりコシヒカリが好き」という方には、東北以外の京都や九州などの産地のものも提案します。コシヒカリが重いという方には、青森の「青天の霹靂」や北海道の「ななつぼし」を。お米屋さんに、お寿司や炊き込みごはんに合うものは? などと用途を伝えるのもいいでしょう。

スーパーや量販店で米を買う際は、米袋によくある小さな丸い透明小窓に注目、中の米粒をチェックしてみましょう。半透明なガラス質ならおいしい米。逆に端に白い部分が多いものは、猛暑などの影響で栄養不良であることも考えられるので避けましょう。また、極端に価格が安いものなどはそれなりの理由があるはずなのでおいしい米を選びたいなら避けたほうが無難です。

噛みしめるごとに「日本人に生まれてきてよかった」と感じさせてくれるおいしいごはん。あわせるおかずにあわせて米を選び、上手に扱い、炊き分けてみたいですね。知識を持つと、もっともっと楽しみが広がるはずです。

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お話を伺った人:廣田実央(みおう)さん

農業に関する仕事を経て、現在は伊勢丹新宿店本館地下1階でシェフズセレクションの米売場を担当。「人間の基本は食べることだと思い、大学で米について学びました。いろんな穀物がありますが、米は加工不要で水で炊くだけ。ありがたい食材だと思います」。好きな品種はコシヒカリ。もみじこ(出身の石川県で”たらこ”のこと)と一緒に食べると幸せを感じる。

お米の基本を知って、さらにお米をおいしく食べたいなら

食メディア『FOODIE』の「意外なあの具材で。シンプルで美味しい炊き込みご飯のレシピ」もチェックしてみてください!

撮影・伊藤晴世

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