口にするたびにホッとした気持ちにさせてくれる味噌汁。決して高級というわけではないけれど、「ごちそう」ってこういうものだと実感します。

どの家庭にもある調味料で発酵食品としても日本人にとってはなじみ深い味噌ですが、日ごろ何を決め手にして選んでいるかと問われれば、首をかしげてしまう人は多いはず。あまりに身近すぎて、じつは知らないことも多かったりするもの。今回は、明治18年の創業以来、江戸味噌の伝統を受け継いでいるあぶまた味噌」の味噌ソムリエ・佐藤清さんに味噌の魅力や選び方、おいしい味噌汁の作り方のヒントを伺いました。

種類から保存法、賞味期限まで、意外と知らない味噌のこと

171017_miso_1.jpg訪ねたのは、伊勢丹新宿店本館地下1階、シェフズセレクションの<あまぶた味噌>。こちらの店舗では、日本各地から選りすぐった味噌を、物によっては味見しながら選ぶことができます。また、100gずつ量り売りしてくれるのも魅力的。

「スーパーで手軽に買えるのに、百貨店を訪れて味噌を選ぼうとする方は意外と多いです。その目的は、味噌汁がワンパターンになっているからと違う味噌を探しにくる方や、いろんな料理にもあわせるために数種類の味噌を常備したいという方も」

佐藤さんによれば、「麹と大豆と塩でできた半固形状の醸造物」というのが味噌の定義。

「味噌づくりは日本で始まったとか大陸から伝わったとか諸説ありますが、味噌が長きにわたって日本人の食文化と健康を守ってきたことは間違いありません。日本人には味噌がおいしいと感じるDNAがからだに組み込まれていると私は信じていますよ」

味噌を愛してやまない佐藤さんに、味噌にまつわる素朴な疑問をぶつけてみました。

Q1. 味噌にはどんな種類があるの?

A. 味噌の原材料は、麹、大豆、塩。種類は、この「麹」によって分類されます。米麹と大豆・塩で作られたものは「米味噌」、豆麹と大豆・塩で作られたものは「豆味噌」、麦麹と大豆・塩で作られたものは「麦味噌」。味噌にはこの3種類があります。

信州味噌、八丁味噌、赤味噌、白味噌、田舎味噌、調合味噌など、もう少し種類がありそうですが、基本的にはこの「米・豆・麦」の3種類。日本で作られている味噌の約8割が「米味噌」です。

<よく見かける味噌の種類と産地>

信州味噌……長野県(信州)を中心に作られる米味噌。

八丁味噌……愛知県の岡崎城から八丁(約872メートル)の距離にある八丁村で作られていた豆味噌。作り方が全国へ広まるときに「八丁味噌」という名前も一緒に伝わったそう。

田舎味噌……赤系の米味噌のことですが、それを田舎味噌と呼ぶことも。

調合味噌……米味噌と豆味噌、米味噌と麦味噌というように、異なる種類の味噌をあわせたもの、もしくは複数の麹で作られた味噌をいう。

味噌は合わせるほどに、おいしさを足し算するので、うまみが厚くなりますよ」と佐藤さん。

Q2. 赤味噌と白味噌は、どう違うの?

171017_miso_2.jpgA. 「赤」と「白」という色の違いには2種類あります。ひとつは、米味噌の赤いものと白いもの。もうひとつは八丁味噌のような中京地区で食べられている豆味噌を「赤」、京都など関西で作られる西京味噌などの米味噌を「白」と呼ぶ分け方です。

ちなみに、料理屋さんなどでよく出される「赤だし」は、溶けにくい豆味噌にやわらかい米味噌をあわせた調合味噌のこと。出汁が入っていると思われがちですが、そうではない商品が多いそう。このように、渋くてテクスチャーの硬い豆味噌には米味噌を合わせ、みりんや水飴(もしくは粉末水飴)を混ぜて味をととのえることも多いそうです。

Q3. 高級な味噌とは、どのようなもの?

A. 高級な味噌は「材料、製法、熟成」の三拍子が揃ったもの。味噌の材料となる米は豆や麦に比べると高価ですし、ブランド米のなかでもさらに産地を限定した米で作った味噌はさらに高価になります。「大寒仕込み」など、冬の一番寒いときにしか作れない味噌も希少価値が高く、それをさらに天然醸造でじっくり熟成させれば値段はますます高くなります。

171017_miso_3.jpgこちらのお店で一番の売れ筋が、長野の米味噌で、大寒の時期に1年に1度だけ仕込む「みそ玉づくり”名匠”(500gで税込1,836円)」。こちらをさらに約1年かけて天然醸造で熟成させたのが「寒熟醸造味噌(500gで税込2,376円)」。もとの味噌より、色も香りも味わいも強くなります。「同じ種類の味噌でも、色が濃いと『熟成しているな』と想像できます。反対に、2カ月程度で米の粒感を残して仕上げる色の淡い軽い味噌もあります。熟成させた高級な味噌だから買うというのも選択肢のひとつですが、あくまでもご自分の好みで選んでくださいね」(佐藤さん)

Q4. 味噌のトレンドは? 人気の味噌は?

171017_miso_4.jpgA. 日本で作られる味噌の約8割が米味噌であることから、やはり米味噌は定番の人気です。最近注目されているのは、甘めの麦味噌。麦独特な香りが評価されて、味噌汁はもちろん、ディップにしたりパンに塗ってトーストにしたりして楽しむ方が増えています。

最近は、健康志向からか「塩分が控えめの味噌はどれですか?」と質問するお客様も多いそう。麦味噌は、塩分が控えめで甘口なものが多いので、ぜひ試してみてほしいと佐藤さんも太鼓判を押してくれました。ちなみに、味噌のパッケージなどに表記されている「十四割」「十五割」という数字は、大豆10に対して、麹がどのぐらい使われているかという表示。米麹をたくさん使うと味噌は甘くなるので、十五割だと「少し甘めかな」と想像できます。

Q5. 好みの味噌を見つけるコツは?

171017_miso_5.jpgA. とにかく、いろんな種類を試してみること。原材料の表示は、含有量が多い順に書いてあります。もし「米・大豆・塩」という順番だったら、米が一番多く含まれているということ。米が多い味噌は甘いです。仙台味噌などは甘みよりも塩味が特徴なので、大豆が先に書かれているはず。一般的に色の濃いものは香りが強く、色が淡い味噌はさっぱりしています。原材料や見た目からも味が想像できるようになると、ますます楽しみは広がると思います。

パッケージや値段で選んでしまいがちな味噌ですが、「自分の勘を信じて”これ!”と思ったものは買ってみて」と佐藤さん。もし好みの味でなければ、味噌とみりんを1:1の割合でのばして『みそ漬け』に使うのもおすすめだそう。失敗しないためにもできれば専門店でアドバイスを受けながら、量り売りしてもらえればベスト。あとは、お友達と一緒に選んだり分けたりして食べるのも楽しそうです。

Q6. 味噌の賞味期限は? 保存法は?

A. 味噌には半年の賞味期限がついているものが多いですが、味噌は保存食でもともと日持ちする食べ物ですので、あまり厳密でなくてもいいかなという印象はあります。しばらく食べないと分かっているなら密閉容器やファスナー付きビニール袋に入れて冷凍保存も可能。冷蔵庫で保存する際は、味噌の表面が空気にふれないように、ラップを表面に押しつけてからフタをするとよいでしょう。

扱いが悪かったのか、味噌の表面がカチカチになっていて驚くことがあります。1回で使う量に小分けして、冷凍してしまうのもいい方法ですね。塩分があるので凍らせてもカチカチにはならないそうです。

Q7. 味噌のおいしい食べ方・アレンジは?

A. 野菜ディップにしたりトーストに塗ったりするには、マヨ味噌やトマ味噌(トマトケチャップ&味噌)にするのが簡単でおすすめ。あとはカレーやハヤシライス、デミグラスソースに少し味噌を溶かすとあっさり和風な味わいに。牛乳やチーズ、豆乳との相性もいいですし、オリーブオイルとも相性◎、七味・山椒といった薬味にも合うので味噌汁だけでなくいろいろ試してみてください。

Q8. おいしい味噌汁を作るコツ、味噌の種類と相性の良い出汁の組み合わせは?

171017_miso_6.jpgA. 味噌汁を作る場合、味噌の香りにあわせて出汁を変えてみるというのもひとつの楽しみ。相性が良いと言われる組み合わせは下記の通り。「ただし、決まりはありません。作る機会の多い味噌汁だからこそ、いろいろ試してほしいと思います」と佐藤さん。

<味噌の種類×相性の良い出汁の組み合わせ>

・赤系の香りの強い味噌×鰹だし or 鰹と昆布のあわせ出汁

・白系のやさしい味噌×昆布出汁

・麦味噌×あご出汁

・赤だし×いりこ出汁

とにかく食べてみて、ご自分の好みの味噌に出会ってみてください」と何度も強調してくれた佐藤さん。味噌のことを知ると、手にとる種類や料理の仕方も変わってきそうな気がします。さっそく味噌を選びに、お店へ足を運びたくなりました。

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お話を伺った人:佐藤 清さん

明治18年の創業以来、江戸味噌の伝統を受け継ぐ「あぶまた味噌」で百貨店統括を担当し、味噌の魅力を伝えている。味噌を使ったレシピを試作し、家族に味見をしてもらうのが週末の楽しみ。「運命の味噌に出会っていただき、お好きな味噌を数種類も使いこなしてくださる。そんなお客様が一人でも多く増えることが私たちの喜びです」

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撮影・伊藤晴世

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