しなやかな体、流れるような動き。ヨガを始めたばかりの私には到底できない技の数々......、ヨガ動画「美しすぎる太陽礼拝」。ハワイ在住のカリスマヨガティーチャー、ヨーコ・フジワラさんの姿に思わず見入ってしまいました。「太陽礼拝(スーリヤ・ナマスカーラ)」はヨガの代表的なプラクティスのひとつ。ヨーコさんがワークショップのため、一時帰国されると聞きつけ、お時間をいただくことに。子どもの頃から「人との違い」に悩んできたというヨーコさん。ヨガと出合ってどのように変わったのか、どうすれば美しい「太陽礼拝」ができるようになるのか、お話を伺いました。写真:JOSS

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母の死、ハーフの兄弟。「自分は人と違う」壁を作った子ども時代


――プロフィールに「幼少期から他人との違いに苦しまれた」とありますが。


ヨーコさん(以下、敬称略):「人との違い」を気にし始めたのは、7歳で母を亡くしてからですね。学校で母の日にお母さんの絵を描くときなど、「あの子はお母さんがいないんだ」と誰も声に出して言いませんが、周りの視線が気になって。その後、父は再婚するんですが、相手は金髪のフランス人。当時はまだ、母と町を歩いていると「あ、外人」と振り返られたりして「うちは普通の家と違うんだ」と日々感じていました。

フランス人の母も再婚だったので、兄、姉、同い年で数カ月違いの兄と一気に兄弟が3人できましたが、その兄弟がハーフでうらやましいことにかわいかったりカッコよかったりするんです。「私だけ違う......」と10代の頃は人知れず心を痛めていました。


――もしかして、いじめなどつらい経験があったのでしょうか。


ヨーコ:学校でも家でもいじめられたわけではないのに、自分で勝手に疎外感を感じて、知らず知らずのうちに自分とほかの人との間に壁を作るようになったんです。家でも外でもうまくハマれない。そう感じているとだんだん反発するようになって。中高生の頃、みんながルーズソックスに短いスカートをはいているのに、私はロックバンドのようなファッションにしてみたり。本当は仲間に入りたい気持ちがあったんだと思います。

でも、「仲間に入れて」と言えなくて。入れるかどうかわからないところには「入りたくない」というほうが楽じゃないですか。自分から距離を置いたんですね。大学生の頃は4年間ずっとハードロックカフェでアルバイトして、夏休みと冬休みはアメリカやヨーロッパに旅行に行きました。とにかく日本を離れたい、外国にいたい、という気持ちが強かったんです。



――では、社会人からは外国に?


ヨーコ:いえ、それが就職は日本でしました。建築学科を卒業したのですが、就職難の時代。建築やデザインは好きだったけど、人気の業界でやっていく自信がなくて勝負する前に楽なほうに流れたんです。私、実は数学系が得意で。当時ちょうどIT企業の勢いがすごいときで、ITエンジニアとして就職しました。同じキャリアで1度転職。2つ目の会社では上司にもかわいがられ仲間もできて、ようやく居場所が見つかったと感じました。

ヨガを始めたのもその頃ですね。まったく本格的ではなく、たしなむ程度でしたけど。せっかく見つかった居心地のよい会社でしたが、当時結婚していた夫の転勤でハワイに行くことになりました。会社の仲間が好きだったから、やめたくなかったけど仕方なく。


――ハワイでもITエンジニアの仕事をしようと思わなかったのですか?


ヨーコ:まったく。会社をやめる前から気づいていたんですが、私、そもそもITが好きじゃなかったんです。もちろん、ハワイでもITエンジニアの仕事、探せばあると思いますが、そもそも好きじゃないことだから調べもしないし情報も入ってこない。幸い、そのときは結婚もしていて急いで仕事を見つける必要もなかったので、この際だから好きなことやろう、ずっとやりたかったヨガを本気でやろうと。ITよりも哲学のほうが好き。

今では一般のヨガクラスでも哲学を教えてくれるところがありますが、当時はポーズを習うだけ。ヨガの先生になろうと思っていたわけじゃないけど、哲学や解剖学など深くヨガを学ぶためにはティーチャーズトレーニングを受けるしか方法がありませんでした


――先生になろうと思っていなかったヨーコさんが先生になったきっかけは何でしょう。


ヨーコ:ハワイには日本人が多いので、日本語と英語、両方を使いこなせる人はいろんなところで重宝されます。ちょうど観光客相手にホテルが朝ヨガレッスンをやり始めた頃で、日本語がしゃべれてヨガができるならやってほしいとワイキキのホテルなどから声がかかってきました。

それまでレッスンを受けていたスタジオからも「日本語クラスやってみない?」と誘われたりして、ヨガの先生になろうと思っていたわけではないのに、気がつけばヨガを教える道が自然にできてきたんです。やりたいことで道が開ける、幸せなことです。はじめは先生なんてできるのか心配でしたが、実際に教えてみるとすごくおもしろくて。天職でした。



ヨガとハワイが固い心をほぐしてくれた

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――子どものときから感じてきた壁、人との違いはいつ頃意識しなくなりましたか?


ヨーコ:ハワイに行った当初は、ワイキキビーチを歩いているときも「日本人ばっかりだな」「みんな同じような服着てるな」と冷ややかな目で見ていたり......ダークなヨーコが残っていました。ティーチャーズトレーニングでヨガを本格的に学び始めた頃からですね、少しづつ心がほぐれてきたのは。ヨガを学んでいくうちに「人と比べること」がいかに無意味かがわかってきました

それと同時に、これまで毛嫌いしていた流行りの服装で同じような髪型をした人たちと、彼女たちと距離を置いて勝手に壁を作ってきた自分とが根本は同じなのだと気づいたんです。表面上は正反対に見えるけど、どちらも心の底では「自分らしさ」「個性」を探しているんです。同じような流行りの服を着ている人たちも本当は個性を見つけたいんだけど見つけられず、不安だからそうしているだけなのだと。その中で個性を模索しているんだと思うようになりました。ヨガとハワイのリラックスできる気候、風土が固く閉ざした私の心を徐々にほぐしていってくれました。


――日本に帰ってくると窮屈に感じることはありますか?


ヨーコ:ハワイでは、ずっとヨガウエアとビーチサンダルで生活していますが、誰も私が何を着ていようと気にしません。2年ほど前だったかな? 帰国したとき成田からビーチサンダルで電車に乗りました。そしたら、向かいに座った女の人が「9月なのにビーサン?」という視線を送ってきた。そんなつもりはなかったのかもしれないけど、根がビビりなのでそう感じてしまったんです。やっぱり日本ではまだ壁を作ってしまっているのかなと。

でも、今回は東京だけでなく、大阪でもワークショップを実施したんですが、もう人の目なんて気にならないくらい楽しくて。私の心も進化しているのかもしれませんね。



人と比べると自分の個性を見失ってしまう


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――ヨガをすると「個性」を生かすことができるということでしょうか。

ヨーコ:個性を生かすというより「自分らしさを見つける」ということでしょうね。私が教えようとしているヨガのレッスンでは、私のやり方を押しつけて真似をさせるのではなく、一人ひとり身長や柔軟性、性格が違うので、それぞれに合ったやり方を見つける手助けをするよう心がけています

初心者のクラスでよくあるのは、不安になって周りをキョロキョロ見てみんなに追いつこうとすること。経験がないんだからできなくて当たり前、先生や周りの人と同じことができなくても、今日の段階ではここまでできればOK、次はここまで、10回やったらここまで到達するよと教えていきます。

人と比べるのではなく、自分の体や性格を深く見つめて自分を知ること。その上で、私は前屈が得意だけど後屈が苦手、あの子は後屈はできるけど前屈が難しそう、とお互いに違いを認め合って、それぞれのいいところを伸ばしていければいいなと。人と比べることは個性を失うことにつながります。



――ヨーコさんはなぜアシュタンガヨガを選ばれたのですか?


ヨーコ:アシュタンガヨガは心と体、両方のエネルギーの流れを感じられるところと、「今」に集中できることが魅力です。ペースが速く、次々にやらないといけないことがあるので、前やったことも次にやることも考えている暇がない。「今」一生懸命やることが大事なので、いい意味で執着なくできるのです。

それと、ポーズが決まっているので、毎日同じことを繰り返します。同じことを続けるとだんだん動きを学んでいってテクニックを深めることができますし、前回できなかったことが次にできたり、逆に昨日できたことが今日できなかったり。睡眠が足りないとか昨夜食べ過ぎたとか、呼吸が浅いなとか、毎日同じことをやるからこそ、ちょっとした体と心の変化に気づくことができます

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――ヨガの呼吸にはいろいろありますが。


ヨーコ:ヨガは基本的に鼻呼吸で、吸うのも吐くのも口ではなく鼻で行います。胸式呼吸と腹式呼吸がありますが、腹式呼吸は水面からゆっくりと沈んでいくイメージでエネルギーを下に落とすのでリラックス系のヨガに多い呼吸法です。対して胸式呼吸は水面をポンポンと浮いている軽いイメージなので動きが激しいヨガはほとんど胸式ですね。

アシュタンガヨガのプラクティスはペースが速く、次から次へとポーズを取らないといけないので胸式呼吸。吸う息と吐く息は同じ長さで行います。胸式呼吸というと浅い呼吸なのかと勘違いする人もいるのですが、浮いている感じで行うけれども大きく吸って大きく吐くので決して呼吸が浅いわけではありません。

ヨーコ・フジワラのヨガな毎日


5:30 起床(目覚まし時計が鳴る前に愛猫ソックスが起こしにくる)
6:00-6:30 座禅
7:00-8:00 ホテルでヨガレッスン
8:30-11:30 スタジオで自分のための練習
11:30 朝食(コーヒー、グラノーラをアーモンドミルクで)
15:00 書道(週に3回)yoko_05.jpg
書道の時間なのに......。
※レッスンの前に軽食(おにぎり、フルーツ、ヨーグルト、ドライフルーツなど)
16:30-19:30 スタジオでヨガレッスン
20:00 夕食(でっかいサラダ!ミックスグリーン、ナッツ、チーズ、アボカドなど)
22:30 就寝
一時はベジタリアンメニューにしたこともあるけれど、ヨーコさんの生活は運動量が多いので体が持たなかったそうです。フランス人のお母さんに育てられたせいか、日本食が恋しいと思うことはなく、具沢山のサラダがおふくろの味なのだとか。肉魚は外食のときだけで肉はチキンのみ。お酒は飲まないけど、マウイオニオン味のポテトチップスが大好き!たまのご褒美として1番小さな袋を買うそうです。食に関しては、ある程度こだわるけど、「こだわりすぎない」のがヨーコさんのこだわり。

ヨガができないのは「怠け者」だけ

――ヨーコさんの「太陽礼拝」は、とても優雅な動きですね。あのようなスムーズに美しくするコツを教えてください。


ヨーコ:キーワードは「振り子」です。体の軸を意識して大きく呼吸、それに合わせて振り子の要領でふわんふわんと上下前後に体を動かすのがポイントです。軸を作ることはバンダというテクニックなのですが、腹筋を使ってお腹を固くするのではなく、呼吸をしながらエネルギーを丹田(下腹部の奥)に集中させるイメージです。軸を中心に集中させたエネルギーをもらさないよう、ふわんと動かす。後ろの足を前に持ってくるときも、蹴り出すのではなく軸を引き上げるイメージでふわんと上げると美しく見えます。

軸のイメージがわからない人は、お気に入りの靴で水たまりを歩かないといけなくなった場面を想像してみてください。できるだけ汚したくないからそっと歩きますよね。音を立てず忍び足で歩くときも同じですが、そのときのお腹の奥が引き上げられる感覚、それが軸です。軸を作ると自然と姿勢もよくなります。



――ヨガに向いている人、向いていない人はいますか?


ヨーコ:『力が弱くても年を取ってもヨガはできます。唯一ヨガができないのは「怠け者」』ーーこれは、アシュタンガヨガのグルが言った有名な言葉です。やる気さえあれば、誰にでもできますし、先生は導いてくれるけど、本人がやる気にならない限り、上達しないし意識も変わりません。体が硬いからヨガはできないという人がいますが、本当は体が硬い人こそヨガをやるべきだと思いますよ。続けていけば、必ず体は柔らかくなるので。



――これからヨガを始める人、なかなか続けられない人にアドバイスをお願いします。


ヨーコ:まずはヨガを楽しい、面白いと感じること面白いなと思ったら、好きな先生を見つけること。初心者の人にどのクラスがおすすめかよく聞かれますが、本当はクラスの難易度より先生との相性のほうが大事。難しいクラスでも先生が好きならやる気が出るし、何度も言っているようにヨガは周りの人と比べてやることではないから、その難しいクラスの中で自分のできることを少しずつ積み上げていけばいいんです。ベーシッククラスでも、先生が苦手なタイプだと行くの嫌になるでしょ? 誰に教えてもらうか、先生はとても重要です

続けるコツは日課のルーティンに入れて時間まで決めてしまうこと。たとえば、月曜19時と決めたら、何があってもそれを優先するくらいの気持ちでいると、そのうち月曜19時になると「あ、ヨガの時間だ」と自然と思うようになる。習慣になったら勝ちですね。私の場合、ヨガはもちろん欠かさずやりますが、書道と座禅はやりたいと思っていたけど、なかなか習慣にできなかったんです。時間があったらやろう、ではその時間は作れないし、仮に時間ができたとしても、その瞬間にメールがきたりしたら他のことをしてしまう。時間は自分で意識して作らない限り一生できません。

――それにしても、ヨガの影響力は大きいですね。


ヨーコ:そうですね。体や心だけじゃなくライフスタイルまで、変えさせてしまうんですから。最近思うんですけど、本気で何かを極めている人は、ヨガだけじゃなくゴルフでも書道でも何でも、同じ考え方なんじゃないかって。私の友人はゴルフへの向き合い方が私から言わせるととてもヨガ的。ほかの人との競争ではなく、自分自身と戦っていて、メンタルがダメなときはショットも曲がると言っています。私の書道の先生もやはり同じで、寝ていないときちんと座れないとか、メンタルがダメな日は筆がスムーズに動かないとよく聞きます。自分の状況を深く見つめて改善していくことすべてがヨガに通ずると感じています。

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――これから先、やっていきたいことは何ですか?


ヨーコ:私はヨガを通して、人と比べることをしないようになり、自分が自分でいることに居心地よくなっていきました。直接教えられる人は限られています。今、指導者育成コースをやっていますが、教え子がほかの誰かに教えれば、どんどん自分らしく生きられる人が増えていく。

私はどのクラスでも、もう一人の私を作ろうとは思っていません。それぞれのやり方で自分らしい生き方を見つけてくれればそれでいい。指導者育成のコースを受けたからといって、必ずしも先生にならなくてもいいんです。トレーニングを受けた結果、本当にやりたかったことが見えてきて、「やっぱりヨガじゃなくてピラティスを極めます」となってもいいし、「本当は料理を勉強したかったと気づいた」でもいい。単にヨガの先生を増やすことより、もっとヨガの本質的なところ。自分らしさ、本当にやりたいことを見つけてくれる人が増えるとうれしいです

ヨーコさんのお気に入り

ルルレモンのブラ&レギンスとリリーロータスのトップス
ヨガウエアはほぼルルレモンで、後ろがYの字になっている「フローYブラ」と「アラインパンツ」が動きやすくて好き。ハワイブランドのリリーロータスはタンクトップなどのデザインが個性的。なかでもヨーコさんは仏(ほとけ)さまがプリントされたシリーズのタンクトップを愛用中。

愛猫ソックス

箱に入るのが大好きなソックス。レッスン終わったら、家ではソックスと遊ぶの待ち遠しいというヨーコさん。ソックスはなんと椅子の上で寝てしまうのだとか。しかも脱力しすぎ!!

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文 / 山本千尋
取材写真/ 高村瑞穂

yoko_profile.jpgヨーコ・フジワラ先生
ヨガ・ティーチャー。東京出身。2006年にハワイへ移住し、2006年よりホノルルを中心にヨガを教える。キャシールイーズ・ブローダのもとアシュタンガ・マイソール弟子入りを含め、数々のアシュタンガ・ティーチャートレーニング、さらにはマタニティヨガ、キッズヨガなどのトレーニングも修了。パープルヨガハワイでメイン講師としてクラスを持ち、2013年よりサンガワイのヨガ指導者育成を始める。ホノルルでは道を歩けば「Hi Yoko!」と声をかけられるほどハワイの人々にも親しまれている。
http://www.ashtangayoko.com/home_jp.html
https://www.ytt-hawaii.com