『告白』、『白ゆき姫殺人事件』、『リバース』など数々のヒット作を世に送りだすミステリー作家、湊かなえの短篇集『望郷』から『夢の国』と『光の航路』がひとつの作品(『望郷』)として、ついに映画化されました。今回は、主演を務めた貫地谷しほりさんに本作にかける想いを聞きました。

映画『望郷』あらすじ

舞台は瀬戸内海に位置する島、因島。古いしきたりを重んじる旧家に育った夢都子(貫地谷しほり)は、家に縛られた人生を送っていました。そんな彼女の幼い頃からの夢は、本土にあるドリームランドという遊園地に行くこと。夢都子にとってドリームランドは遊園地以上の――自由という意味をもっていました。

しかし、封建的な祖母と祖母の顔色をうかがう母は、夢都子がドリームランドへ行くことを決して許してはくれませんでした。時を経て夢都子は結婚し家庭を築きますが、ある日、ドリームランドが閉鎖するニュースを耳にします。そこで夢都子が告白する衝撃の記憶とは......。

憧れや夢は、本当は存在しないのかもしれない

kanjiya_001.jpg――貫地谷さんにとってのドリームランドは過去に存在したのでしょうか? 

貫地谷さん(以下敬略):私にとっては芸能界がドリームランドでした。キラキラとした夢のような世界だと思い込んでいました。でも、芸能界でいざ生きてみると、とても泥臭い地道な仕事の連続なんですよね。

ドリームランドそのものに憧れていたというよりは、ドリームランドに行ける人に実は憧れていたような気がします。その点は夢都子と同じかもしれません。芸能界という未知の世界への憧れ。そして、ドリームランドに行ってみると抱いていた憧れとは違う現実。憧れや夢ってあるようでないのかもしれない......この映画に出演してそう思いました。

――島ならではの閉塞感や家の呪縛に苦しむ夢都子をとてもリアルに演じていましたが、東京都出身の貫地谷さんはこの役柄にどのようにアプローチしたのですか?

貫地谷:島を舞台とした物語ではありますが、私自身、夢都子にとても共感したところがありました。「私はこうでなきゃいけない」と勝手に思い込んで自分自身を縛ることってありますよね? 自分で自分をがんじがらめにしてしまう。本当は人って無限の可能性があるのに、可能性へ一歩踏み出せない......。夢都子は家に呪縛されていただけではなく、自分自身にも呪縛されていたんじゃないかな。

――島に住んでいなくとも「女はーー、妻はーー、母はーーこうしなきゃいけない」といった、社会的な女性の役割に呪縛されている女性は案外多いと思います。仕事をするなかで貫地谷さんは、女性ならではの社会的な呪縛を感じたことがありますか?

貫地谷:そうですね......そういった意味ではあまり社会的な女性の役割にとらわれたことはないですね。19才のときに出演したドラマの監督からは、「貫地谷君は女の子ならこうすると思うような行動を絶対にとらないよね」と言われたことがあります(笑)。親や演劇の恩師にも「自分が思ったことをやりなさい」と育てられました。自由に育ててくれたことに感謝しています。

――受動的な人生を送っているようにみえる夢都子ですが、内心に強さを秘めた女性だと思います。貫地谷さんは夢都子に自分を投影した部分があるのでしょうか?

貫地谷:芝居というのはやはり素の自分がどこかに出てしまうものなんです。いまこうしてインタビューに答えるほうがよっぽど猫かぶっているのかも(笑)。だから夢都子のどこかに私が出ているかもしれないですね。

自分自身を解放する自由な心が欲しい

kanjiya002.jpg――本作は貫地谷さんにとって大切な作品とのことですが、どういう意味ですか?

貫地谷:お芝居は長く続ければ続けるほど、自分のなかである種の公式ができてしまう......。自分のロジックにとらわれて嫌だなと思っていた時期に菊地健雄監督と出会ったんです。菊地監督のように、これほど細かく私の演技をよくみて丁寧に導いて下さる方は、なかなかいらっしゃらない。

撮影中、「私、なんでこんなに出来ないんだろう!?」と何度も落ち込むことがあったんですが、監督はずっと諦めずに隣にいて指導してくれました。菊地監督のおかげで、自分の知らない自分に出会い、新しい気づきがたくさんありました。心と体が柔らかくなったような気がします。

――そこまで想いをかけて演じた映画の仕上がりをみて、どう思いましたか?

貫地谷:自分の作品に関してはどうしても自分のアラ探しをしてしまい、なかなか冷静に観られないタイプなんですが(笑)、みんなの想いが素晴らしい形で表現できたと思っています。

――原作とは異なるシーンがいくつかありますよね。

貫地谷:ちょうど今日、湊かなえ先生とお会いしたのですが、原作にはないシーンについて「あぁ、そういう手があったか!」と先生がおっしゃって下さって、監督がガッツポーズをしていました。私もとてもうれしかったです。役者とスタッフ一同「いいモノを作ろう!」と心をひとつにした、熱意ある現場でした。

――見つけると自分の希望が叶う石の十字架が作中に出てきますが、夢都子が見つけたらいったい何を願うのでしょう? もしも貫地谷さん自身が見つけたら何を願いますか?

貫地谷:夢都子はやはり「私のことを見て」という願いかな。母親が常に祖母を優先してきたせいで夢都子は寂しい幼少時代を過ごしました。そんな積み重なった悲しい思いを石の十字架にたくすのではないでしょうか。

私が石の十字架を見つけたら、あと10センチ背が高くなることをお願いするかな(笑)。もっともっと自分自身を解放できる自由な心が欲しいです。自分が作りあげた芝居のロジックに縛られないで、色々なモノをみて勉強して、自由に演じていくことができたらと思います。

人生の答えは、自分のなかにある

――生きることに窮屈を感じたとき、明日に向かってがんばるために貫地谷さんが実践していることは?

貫地谷:誰でも窮屈を感じるときがありますよね。私は、それは人生の修行だと思っているんです。20代前半はとにかく海外に行きたい、色々な人と出会って話がしたい、と心が外へ外へと向かっていました。でも、答えは本当は自分のなかにあるのかもしれない......自分と向き合ったぶんだけ相手にも向き合えるんじゃないかな、なんていまは感じています。

あとは、体力が落ちてきたので1ヶ月ほど前から週に2、3回のペースでストレッチを中心に筋トレもするようにしています。プランク(体幹を鍛えるトレーニング)は最初は20秒しかできなかったのですが、いまでは1分20秒もできるようになったんですよ!(笑)

望郷
出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒形直人
監督:菊地健雄
原作:湊かなえ『夢の国』『光の航路』(『望郷』文春文庫所蔵)
主題歌:moumoon『光の影』(avex trax)
制作・配給:エイベックス・デジタル
2017年9月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国拡大上映

写真/高橋健太郎 文/此花さくや