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アテネ五輪に出場できなかったことで気づいた自分たちの甘さ〜元バドミントン選手・小椋久美子

元アスリートの意識改革

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アテネ五輪に出場できなかったことで気づいた自分たちの甘さ〜元バドミントン選手・小椋久美子

SPORTSカテゴリーでは、「元アスリートの意識改革」をお届けします。結果を出してきたアスリートが、現役時代を振り返り意識が変わったターニングポイントは何だったのか? 引退したいま、その意識はどう変化したのか。vol.2は、北京オリンピックバドミントン日本代表ダブルスとして5位入賞など、国内外で活躍した小椋久美子さんに、意識改革した瞬間についてお伺いしました。

* * *

小椋久美子の言葉

「たとえつまづいても、別のアプローチからチャレンジする。そんな風にポジティブに変換できる"生命力"をバドミントンを通して学んだ」

パートナー・潮田玲子との約束

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――小椋さんにとって、意識改革につながった転機についてお聞きできればと思います。

小椋(以下敬略)私、転機はたくさんあるんですよ。でも、ひとつ挙げるなら、本気でオリンピックを目指そうと思った瞬間ですね。アテネオリンピックに出場できないことが決まってから、パートナーの玲ちゃん(潮田玲子)と、「4年間、死ぬ気で頑張ろう」と話した時。

――アテネオリンピックは2004年。その前後で、改めて本気で話し合う機会があったんですか?

小椋:私たち、普段からよく話し合っていたんです。ほとんどふたり部屋だったから試合の反省もよくしたし、うまくいかなかった時の改善策として思いついたことを話したり、トレーニング後のストレッチで話したり。だから、改まってという感じではなく、自然と「絶対にオリンピックに出たいね」という話になって。

――なるほど。

小椋:あ、ごめんなさい。ちょっと違うかも。「出たい」ではなく、「自分たちが出られないのは仕方のないこと」という話から始まった気がします。

――というと?

小椋:オリンピックの出場権を懸けた1年間のレースって、めちゃくちゃ過酷なんですよ。プレッシャーもあるし、ずっと海外を回らなきゃいけないこともあって。試合に向けての気持ちの作り方やケガとの向き合い方はホントに難しくて、あの時は私のケガのせいで半年だけ挑戦させてもらったんですけど、それでも本当に過酷で。

――でも、出場し続けなければ世界ランキングのポイントを稼げない。

小椋:先輩たちもみんなボロボロでした。痛み止めの注射を打って、精神力だけで戦って。その姿を見て、自分たちの甘さに気づいたんです。オリンピックに出場するのは本当に大変なことなんだって。だからあの時の自分たちが出られないのは当たり前で、それに気づいた時に、「4年間、死ぬ気で走り抜けよう」と話し合って。

――それまでの自分たちは、考え方が甘かった。

小椋:甘かったですね。正直、当時はまだ日本一になったこともなくて、ある意味では中途半端な状態で海外のレースに参戦させてもらっていました。だから、「まずは日本一にならなきゃ」と

ogura_02.jpg――その言葉のとおり、"オグシオ"は2004年の社会人選手権で日本一になりました。

小椋:「これで挑戦できるね」という話をしました。そこが、私たちの本当の意味でのスタートでした。

――意識がガラリと変わった2004年。

小椋:すごく幸運だったのは、今の日本代表のダブルスを教えている中島慶(旧姓・丁其慶/中国出身)コーチが、その年に私たちが所属していた三洋電機のコーチになってくれたんです。

私たちは、もともとシングルスのプレーヤーだったので、ダブルスでもあくまでシングルスの延長のようなスタイルでした。でも、コーチに教わるようになってから本当の意味で"ダブルス"のプレーヤーになれた。それがすごく大きかったと思います。

――最高のタイミングだったわけですね。

小椋:本当に。運が良かったんだと思います。

潮田玲子との奇跡的なめぐり合わせ

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――北京オリンピックまでの4年間で、"オグシオ"は結果を残しました。楽しかったのでは?

小椋:いや......全然楽しくな......あ、すみません(笑)。国内では4連覇したし、世界選手権で3位になって、アジア選手権でも3位になりました。だから「楽しかったでしょ?」とよく聞かれたんですけど......。

――違ったんですね(笑)。

小椋:私、いま振り返っても、自分の人生において、あの4年間がいっっちばん長かったです。長かったし、キツかった。目標があったから乗り越えられたけど、やっぱりキツかった。あの時代には、もう戻れません。

ogura_04.jpg――すごく単純な疑問なんですが、それだけキツかった4年間を「目標があったから乗り越えられた」というのが、理解できるようで理解できないというか。だって、たとえ大きな目標があっても、あきらめてしまう人もたくさんいますよね。

小椋:もちろん「玲ちゃんと約束したから」ということもあるし、何より、本当に、心の底からオリンピックに出たかったんだと思います。それが心の支えになっていたことは間違いないですね。

――オリンピック出場への強い思い、ですね。

小椋:やっぱり、玲ちゃんの存在が大きかったんです。ひとりだったら苦しくて脱落していたかもしれないけど、玲ちゃんはいろんな意味で待っていてくれたというか。『玲ちゃんがいるから私も頑張らなきゃ』といつも思っていました。直接的に励まし合ったりするようなことは、ほとんどなかったと思うんですけど。

――言葉じゃなく、互いの存在そのもので支え合う。

小椋:はい。私たちの関係は、責め合うようなことも、焦らされるようなことも一切なく、互いに背中で語るという感じでした。大袈裟じゃなく、私は「いつでも帰れる場所がある」と思っていたし、ケガをした時も玲ちゃんの背中が「私が守っておくからね」と言ってくれているような感じで。

だから、言葉じゃないんですよね。もちろん『ケガの具合どう?』とは聞かれるけど、『早く戻ってきてね』とは言われない。

――そういうふたりがペアを組むことになったことが、今となっては奇跡的なめぐり合わせのようにも思えますね。

小椋:ホントにそう。玲ちゃんと組んだきっかけも偶然でした。普通なら、自分たちで話し合ってとか、実力のトップ同士で組むとか、そういう"理由"があるじゃないですか。私たちは高校1年生の時の全日本ジュニアの合宿で一緒になって、でもシングルスは強い先輩がいたので、結局、"余ったふたり"が一緒に組むことになって(笑)

――そんないきさつがあったなんて初めて知りました。

小椋:『余りものには福があるんだ!』なんて、ふたりで言ってましたから(笑)。だから本当に偶然。

でも、ふたりで組んで初めての試合で「私たち、めっちゃ強いじゃん!」と感じて、初めて『組みたいね』と盛り上がったことを覚えています。あの感触がなければ、ペアになることなんてなかったと思うんです。

"オリンピック"を理解するのに引退後8年もかかった

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――迎えた北京五輪は準々決勝で敗退。5位という結果でした。

小椋:なんだろう......。悔しさと後悔......。うん、それしかないですね。4年間、あれだけ必死に走り抜いたのに、いいパフォーマンスが全くできなくて。

――期待が大きかった分、難しいところもあったと思うのですが、いかがですか?

小椋:経験してみて、あの一瞬にピークを合わせられる選手って、本当にすごいと感じました。「天才」に近いんじゃないかなと思うんですよ。ケガをして出られなかった人もいるし、直前にピークが来てしまう人もいる。そういう中で、最高のパフォーマンスを発揮したり、自分の持っている力以上のものを発揮するのって、本当にすごいなって。

――「もう1回やり直したい」という気持ちは?

小椋:そういう気持ちもありました。いや、でも......。そう思っていたのかなあ......。あの、全部話してしまうと......。

――はい。

小椋:あと4年間頑張って、もし出られなかったら、自分は「悔しい」と思ったり、落ち込むだけで済みますよね。でも、そこにどれだけの人が関わって、支えてくれたかを考えると本当に申し訳なくて。だから北京オリンピックが終わった時も、申し訳なくて「日本に帰りたくない」と思っていたくらい。

――そんなにショックが大きかったんですね。

小椋:そうですね。私、それからずっと、「オリンピックに出場した」ということさえも言われたくなかったんです。自分の中で消化できなくて、4年間ずっとそんな感じで。

4年後のロンドンオリンピックは、ある番組の企画で行かせてもらうことになりました。少しだけ取材をさせてもらうような距離感でお仕事をさせてもらったんですけど、マラソンのコースを見た時に気づいたんです。「ああ、ここで走るんだなあ」「それってすごく幸せなことだよなあ」って。

――なるほど。そうかもしれないですね。

小椋:その時に「あれ?」って。「私もそうだったんじゃん!」って気づいたんです。舞台に立つだけで本当に幸せなことだし、出たくても出られない選手がたくさんいる中で、自分はあの舞台に立たせてもらったことが本当に幸せなこと。そのことに気づいて初めて、「北京五輪に出場した"オグシオ"の小椋久美子」を受け入れられるようになったというか。

――北京五輪から丸4年ですね。

小椋:はい。さらにその4年後、今度は解説者としてリオデジャネイロ五輪に行かせてもらいました。全日程が終了して、何もなくなったコートで、関係者と一緒に写真を撮ることになったんです。でも、コートの近くまで行ったら、ものすごい恐怖感に襲われてしまって。

――それはどうしてですか?

小椋:メインコートは、自分の中ではまだ"聖地"だったんです。そこに立とうとするだけで「怖い」と感じてしまうくらいの。

――北京の悔しさを消化するまでに4年かかって、"オリンピック"という舞台の大きさを本当の意味で理解するまでに8年かかった。

小椋:かかりましたね(笑)。私にとって、それくらい大きなものだったんだと思います。

現役引退後のいま、めっちゃ楽しいです!

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――オリンピックにまつわる一連の経験は、今の小椋さんにどう活かされていますか?

小椋:ポジティブさ......ですかね。うーん、違うかな......。私、精神的にめっちゃ落ちるタイプなんですよ。でも、そこからポジティブに考え直して、這い上がる力はあるほうかなと思っていて。なんて言うんだろう......生命力?(笑)

――生命力(笑)。なるほど!

小椋:指導者の皆さんにはめちゃくちゃ怒られたけど、それによって考える力もついたし、調子に乗ることもありませんでした。「選手として」より「社会人として」ということを常に言われていたし、「感謝すること」の大切さも教えてもらいました。

直接関わる人だけじゃなく、自分の目に見えていない人にも感謝しなきゃいけない。対戦相手にも感謝しなきゃいけない。それって、スポーツ選手にとっては絶対に大切なことだと思っているんです。

――なるほど。

小椋:だから、何かにつまづいた時に、ひとつの方向では考えなくなりました。常に違う側面からものごとを見て、考えて、もう一度チャレンジする。そういう部分をバドミントンに育ててもらったし、そうやって生命力を蓄えていったんじゃないかなって(笑)。

――いや、ホントに、まさに「生命力」だと思います。

小椋:それがなかったら、私の性格的にはどこまでも落ちてしまうと思うんです。でも、「違う側面からものごとを考える」ことをバドミントンが教えてくれたから、ポジティブに変換できるようになれた。逆に言うと、教えてもらったことで、自分自身のことを深く知ることができたのかもしれません。

ogura_07.jpg――大切なのは、むしろそっちかもしれないですね。

小椋:そうですね。自分自身のことを理解できれば、それまでとは違う可能性を模索できるし、チャレンジできる。ダメな部分を理解して、納得するからトレーニングできる。そういう意味では、私が本当にダメな人間だから勝てたのかもしれません。

――そういう考え方を持つことができれば、引退してからのセカンドキャリアも楽しいのでは?

小椋:はい、もう、めっちゃ楽しいです。めっちゃ楽しいです。

――2回言いましたね(笑)。

小椋:すごく幸せです。バドミントンの経験を活かしながら、いろいろなことにチャレンジできる。プライベートではフットサルに挑戦したり、一人旅にハマったり。(マネージャーに向かって)いつも言ってるよね? 「めっちゃ幸せ」って。私、ちょっと変わってますよね?(笑) 現役時代はもっと変わっていたから、少しはマシになったというか、いまは本当に、ありのままの自分になれた気がするんですよ。

小椋久美子

1983年7月5日生まれ。三重県出身。8歳の時、姉の影響を受け地元のスポーツ少年団でバドミントンを始める。中学卒業後、四天王寺高校へ進学。2000年に全国高校総体でダブルス準優勝、2001年の全国高校選抜でシングルス準優勝を果たす。三洋電機入社後の2002年には全日本総合バドミントン選手権シングルスで優勝。その後、ダブルスプレーヤーに転向し、北京オリンピックで5位入賞、全日本総合バドミントン選手権では5連覇を達成。2010年1月に現役を引退。同年3月、三洋電機を退社。現在は解説や講演、子供たちへの指導を中心にバドミントンを通じてスポーツの楽しさを伝える活動を行っている。

写真/moco 文/細江克弥

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