健康志向が高まるなか、塩分の摂りすぎを気にする人が増えています。なにかと悪者にされがちな塩ですが、基本的には人間の生命維持に欠かせない大切な物質。日ごろから意識的に良質な塩を正しく摂る方法や、これから注目したい塩のトレンドなどを、ソルトコーディネーターの青山志穂さんに伺いました。

やみくもな減塩が危険な理由

20170626_salt_1.jpgキャリーバッグから取り出したビニールポーチには、試験管に入った色とりどりの塩がずらり。この日、約200種類もの塩のサンプルを持ってきてくれた青山さん。塩の名前や特徴、合いそうな食材などを記したイラスト入りのラベルも、すべてパソコンで手作りしたものです。

青山さん 「マニアックでしょう、もはや塩変態ですね(笑)。日本には500以上の製塩所があって、商品として流通している塩だけで600種類はあります。輸入品を含めると4000種類以上。製法の微妙なコントロールで結晶の形が変わり、味わいやミネラルバランスも変化するので、ひとつとして同じものはありません」

大手食品会社でマーケティングや商品開発に携わったのち、2007年に退社して沖縄に移住。沖縄の塩の専門店に入社したのが、この道に入ったきっかけ。社内資格として立ち上げたソルトソムリエ制度を広めるために独立し、日本ソルトコーディネーター協会を設立しました。

青山さん 「2005年に塩が完全自由化されて、たくさんの塩が手に入るようになった今だからこそ、おいしい塩を正しく選んで、活かし、楽しむ方法を知ってほしい。健康意識が高いほど、塩は摂ってはいけないと思ってしまうことがありますが、塩は生きるために不可欠なミネラルです。正しく摂れば、健康にも美容にもメリットがいっぱいなんですよ」

体のなかに0.9%程度のナトリウム(塩分)が入っていることが、人間にとってナチュラルな状態。汗や尿といっしょに排泄されるので、塩分を控えすぎると細胞がうまく働かなくなり、ときには死に至ることもあります。

夏にむけてリスクが高まる熱中症も、水分だけでなく、汗で失われる塩分を適切に補うことが予防のカギ。やみくもな減塩は、思わぬ体調不良につながることもあるのです。

健康志向の弊害。スムージーで塩分不足に?

20170626_salt_2.jpg若い女性に多いケースとして青山さんが心配するのは健康や美容のためと野菜の食べ過ぎ!? による塩分不足と、体の冷え、どういうことなのでしょうか。

青山さん 「野菜に多く含まれるカリウムは、ナトリウムの排出を促します。塩分は体に熱を発生させる働きがあるので、体内で一定量が不足すると体が冷えてしまう。特に夏野菜は、体を冷やすものも多いですしね。野菜をたくさん食べる人は、むしろちょっと塩分多めを心がけたほうがいい場合もありますね」

朝食に冷たいスムージーや酵素ジュースを飲む人や、野菜中心の食生活で、塩分の摂りすぎを気にしている人は要注意。カリウムとナトリウムはバランスよく摂取しないと、かえって冷えやむくみ、疲れの原因になります。

青山さん 「人間は、生まれたときは体の水分量が80%くらいなのに、高齢になると50%を切ってくる。バランスのいい塩分濃度を保つために、年齢とともに塩分量を減らすことは必要です。ただ、それは必ずしも30代の女性には当てはまりません」

妊娠中は別として、普通の食事で塩分過多を気にしすぎることはない、と青山さん。ただし、ストレスによるジャンクフードの食べ過ぎは別です。

青山さん 「ポテトチップスを食べ続けていると、途中でおいしく感じなくなるのは、体からの”塩分摂りすぎ”サイン。人間は、足りないものはおいしく感じるようにできています。まずいと感じたら、そこでやめることが大切です」

イライラしていると、胸やけしてもつい食べ続けてしまうジャンクフード。体の声を意識することで、塩分の過剰摂取を防ぐことができます。

塩分を摂るなら「朝ごはん」がおすすめ

20170626_salt_3.jpg朝起きて自分の体調をチェックしたいとき、青山さんはよく「0.9%の食塩水」を飲むのだそう。人間の体液とほぼ同じ濃度で、生理食塩水ともいわれます。

青山さん 「普通の体調のときはしょっぱく感じるのに、すごく疲れているときや、ストレスがたまっているときは、妙においしかったり、甘く感じたりするんですよ。二日酔いのときは、ほとんど味がしません(笑)」

1日のなかで塩分をしっかり摂るなら、朝・昼・晩のなかでは朝がいちばんとのこと。まだスイッチが入っていない冷えた体を温めて、カンフル剤のように活力を与えてくれます。

青山さん 「私は沖縄住まいなので、夏の朝は炭酸水にシークワーサーをしぼって、塩をちょっと入れて飲んだりしています。デトックスウォーターに塩をプラスするのもおすすめ」

いっぽう夜は、活動量が減り眠るだけなので、塩分をたくさん摂る必要はないといいます。

その日の体調や活動量に合わせて調整すること、「おいしい」という自分の味覚を信じること。塩にこだわることは、自分の体をていねいに扱うことにもつながるのかもしれません。

ソルトコーディネーターの青山志穂さんに聞く「理想的な塩分補給・塩の摂り方」、次回は塩に関する素朴な疑問をQ&A形式でご紹介します。

お話を伺った方:青山志穂さん

20170626_aoyama_profile.jpg一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事/シニアソルトコーディネーター。東京都出身。料理好きの母の下、幼少の頃から様々な国の料理を食べて育ち、食べるの大好き!な食いしん坊に育つ。大学卒業後、食品メーカーを経て、沖縄へ移住し、塩の専門店に入社。数年をかけて日本初のソルトソムリエ制度(社内資格制度)を立ち上げる。2012年に一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会を設立し、独立。現在は、全国各地を飛び回りながら、講演活動やメディア出演など、塩の魅力を広く伝えている。代表著作に「日本と世界の塩の図鑑」(あさ出版)、「塩図鑑」(東京書籍)など。

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