フィジカルディレクターの平山昌弘さんをゲストに迎えたボディメイク連載「ボディ・コンシェルジュ〜筋肉は最高のファッション!」筋肉や坐骨の使い方を語った前回に引き続き、vol.2では下着や意識の話がバンバン登場。自分の体を知り、より格好よく服を着るためのメソッドをご紹介します。

巻いたバスタオルが落ちるのは、胸のせいにあらず

清水さん(以下清水):
「前回、背中が使えないと、服が決まらないし、表情さえ、自信がないような印象になるというお話がありましたよね」

平山先生(以下平山):
「そう。土台の骨盤が関係しているんだけれど、そのせいで日本人は背中が使えないし、肋骨の向きすらも違ってきちゃう。西欧人は広背筋をちゃんと使えているんだよ」

清水:
「日本人は背中が使えないぶん、肩を固めているところがありますよね。その結果、首が埋もれてるような印象になりがちですね」

平山:
「ランナーを見ているとよくわかるんだけれど、西欧人のアスリートは背中を使えるから腕がストンと下に落ちる。日本人は背中が使えない分、上半身にどうしても力が入るんだよね。一生懸命に腕を振って頑張っているし、首も短く見える」

清水:
「よくわかります! 以前、海外ブランドの撮影をしたとき、本国から担当者もいらして、その方が日本人のモデルさんに、『首を伸ばしてね』と何度も声をかけていたことがありました」

平山:
「おそらくそのモデルさんは、無意識に背中が丸まって首が埋もれてみえたんだろうね。プロのモデルですらそうなんだから、一般の人はよくよく意識しないと。人類が直立歩行をするようになる歴史は、いわば"背中が使えるようになった歴史"なんだから」

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METガラでのキャンディス・スワンポール。立体的な胸郭で、格好よいドレススタイルに。

清水:
「その話をうかがっていて、背中でもうひとつ思い出したことがあります。スタイリストという仕事は旬の洋服をコーディネイトするだけでなく、撮影などでモデルに着せつけるところまでが仕事なんです」

平山:
「コーディネイトも大事だけど、着せ方も大事だよね。大きなファッションショーのときは、必ず外部からスタイリストさんを大勢呼ぶものね。着せ方は大事だよね」

清水:
「そうなんです。サンプルの服はワンサイズの場合が多いので、モデルさんの体に合わせて、服の後ろを摘んで詰めることが多いのですが、日本人か西欧人かによって、まず、摘まなきゃ! と思う位置が大いに違うんです」

平山:
「なるほどね。西欧人はウエスト位置を合わせるくらい?」

清水:
「はい。まずウエストからで微調整に入ります。というか、そうしたくなるのですが、日本人は、肩甲骨の間から、まず詰めていきたくなるんです。体が細いから、というだけでは説明がつかないような......」

平山:
「それも肋骨の向きが関係しているね。体を横から見たとき、背骨がS字カーブになっているというのは有名だよね?」

清水:
「もちろん。筋肉オタクになる前から知っていました(笑)」

平山:
骨盤が前傾している西欧人は、S字のカーブが全体に深くなるから胸も開くんだよね」

清水:
「ああ、だから細いのに肩甲骨周りをつまむ必要がないんですね」

平山:
「そして肋骨が立体的になるから、胸の高さも出る

清水:
「やっぱり! 決してバストが大きいとは言えないモデルでも、西欧人だと胸のラインがキレイだなと思っていました。前屈みになっても胸がなかなか見えないのですよね」

平山:
「日本人だと、かがむと胸がべろんと見えちゃうでしょ?(笑)あれは胸郭が薄くて平たいから。立体的なら、多少かがんでも胸が見えたりしないんだよ。体にバスタオルを巻いても落ちちゃうのも、同じ原理

清水:
「胸が小さいからタオルが落ちるというのは、勘違いなんですね(笑)」

平山:
「胸郭が立体的なら、胸のサイズに関係なく巻いたバスタオルは落ちないの」

そのブラ、ただの"乳当て"になっていない?

清水:
「そういう意味で言うと、ランジェリーの意識の違いも気になるところなんです。日本のブラは、そもそも発端が胸の丸みを押さえるという感覚から始まっています。けれど、西洋は、魅せる、という感覚から始まってますよね

平山:
「シバリス(フランスのランジェリーブランド。バストを締め付けず、ボディに心地よくフィットすることで有名)なんて、動いたときのことまで計算されているのにね」

清水:
「男性の平山先生が、そんな通なブランドをご存知とは、心強い! シバリスのブラは、日本で30年以上人気のあるブランドですよね。いわゆる"シバリス胸"と言われるように、独特の美しい立体感で有名ですよね。あれ、黄金律って言われる絶妙なバランスのパターンを駆使されているそうです」

平山:
「運動生理学を学んだ人が作っていたりするからね。ズロースと乳バンドから始まっている日本は、もっと下着への意識を高めるべき

清水:
「私、ランジェリーは、女性の自己肯定感を高めるためにあると思うのです。機能だけでなく、そういう心理効果も大事だと。なので、まず自分の体を美しく魅せるランジェリーを選ぶのって大事だと思います。海外のブランドは、その魅せ方の哲学が違うから、同じ自分の体でも試着室で、『おお、こう来るか』と驚くほど見え方が違う(笑)。自分と相性のよいブランドを見つけて、魅せる、という意識を育むのも、心の筋トレですよね」

平山:
ブラジャーはただの"乳当て"じゃないからね」

足の"胴元"は、実は股関節?

平山:
「それからもう1つ、日本人に気をつけてほしいのが、靴への意識

清水:
「私たちが靴を履くようになってから、まだ100年ちょっとですもんね。ブランドによって足型が合う、合わないもありますが......」

平山:
「もちろん。ただ、僕は『足の"胴元"は股関節』という言い方をしているんだけれど、股関節があり、そのあり方が現れる末端が足なんだよ」

清水:
「胴元、ですか!(笑)」

平山:
「そう。その人の体の使い方が端的に現れるのが足なんだよね」

清水:
「私もそうですが、日本人はどうしても、ペタペタ歩きになりがちですよね」

平山:
「それは靴を履きこなせていないから。"ヒールの高さに適応できる体"が大事なんだよ」

清水:
「高いヒールを履くポテンシャルも身体次第なのですね」

平山:
「そう。靴を履く能力は、股関節にかかっているから」

清水:
「それと同時に、靴を選ぶセンスも要求されますね。靴文化で育っている西欧人は、海外のデパートに行くと、靴の試着にみんな時間をかけてますよね。N.Y.でバーグドルフに行ったとき、靴を選んでいるマダムがいて。ほかのフロアを見て、お茶をして、3時間後に通りかかったらまだ靴を選んでました(笑)」

平山:
「そういう文化が日本にはないよね。どうしても店員任せだったり、デザインを見て気に入って、足が入ればそれを買っちゃってる」

清水:
「2017年の秋冬はサイハイブーツ(膝上まである超ロングブーツ)がトレンドのひとつなんですが、どうしてもお値段が高くなる。足が入るかだけでなく、歩いてフィットするものをちゃんと探さないと、モトがとれないなあと思っていたところです」

日本人の靴意識は、まだ発展途上

平山:
「靴への意識を高めるなら、ぜひ「パンプスメソッド研究所 i/288」も行ってみてほしいな。ベーシックな木型は2つなんだけど、サイズが288も用意されているんだ」

清水:
「288サイズ!? そんなサイズ展開、聞いたことがありません!」

平山:
「ひとり90分かけて選ぶんだよ」

清水:
「本当に自分の足に合う靴の感覚って、実はあまり知らないのかもしれないです」

平山:
「しかも、体って日々変化するよね。およそ26個もの骨からできている足は、時間帯によっても月のサイクルによっても変わるし。女性は靴をツーサイズもつべき、というのが僕の持論

清水:
「ツーサイズ! お気に入りの靴を色違いで2足というのはありましたが、サイズ違いは持っていないなあ」

平山:
「靴を選ぶなら足がむくむ夕方に、というのはよく言われるよね。でも、満月なら体が膨張するなど、月のサイクルでも違うんだよ」

清水:
「なるほど。1サイズだとどうしてもズレてしまうんですね」

平山:
「しかも、そこの靴作りの技術顧問になっている矢口さんという方は、フランス・イタリア・ドイツをまわって勉強してきているの。そして日本人の足に合う靴を作ろうと研究されているから、日本の標準的なパンプスとは、ヒールの位置が内側に2ミリだけ違う

清水:
「ヒールの位置をずらす、って重心に大事ですよね。でも、それ靴全体の構造に関わるから、大変な英断ですね」

平山:
「そもそも、明治維新後に洋服を着始めたとき、日本には靴を作る技術がなかったからね」

清水:
「港町である神戸に、中国人を呼んで靴を作り始めたのが最初だと聞いたことがあります」

平山:
「そうそう。シーボルトの時代に靴を履いた日本人はいるんだけれど、ちゃんと靴を履いた日本人は、坂本龍馬が初めてじゃないかな」

清水:
「貿易会社をやっていたから、そういうご縁があったんでしょうね。袴でブーツを履いている写真が残っていますよね」

平山:
「それから約150年あまり経っているけれど、靴への意識はまだまだ。フィットする靴がどんなに快適か、ぜひ味わってほしいね」

清水:
「靴ブランドで有名な、サルバトーレ・フェラガモさんが、『良い靴を履いていると、その足は老けない』と言っていたのを思い出しました。快適な靴、大事ですよね」

車もゴルフも、体がわかるとさらに楽しい


平山:
「体についての意識が高まると、ファッション以外のアイテムの選び方も変わってくるんだよ。たとえば車なんかもそのひとつ」

清水:
「先生、案外耽美主義ですよね(笑)」

平山:
「確かに(笑)。ジャガーに乗っていたときは、『座席がすごくいい!』って気に入って決めてた(笑)。フランスの車も、シートやサスペンションが心地いいんだよね」

清水:
「それに比べると、イタリア車は遊んでいる感じがします」

平山:
「美学ありきなんだよね。姿勢よく座るためじゃなく、格好よく座るためにできているイメージ」

清水:
「ヨーロッパとひとくくりにしてしまっていても、快感のツボが違うんでしょうね」

平山:
「ただ、日本車もそういった、海外の快感のツボを意識し始めているよね。グローバル化に伴って評価基準がうるさくなったから、レクサスのような海外販売を意識している車は、座り心地やペダルの位置など、を緻密に計算していると思うよ」

清水:
「大事にする部分が世界標準になってきたのは良いことですね」

平山:
「ゴルフもしかり。ゴルフ文化が日本に入ってきたときに、「on the hip joint」をうまく翻訳できなかったって話、知ってる?」

清水:
「ジョイント......つまり股関節のことですか?」

平山:
「そう! 股関節という考え方がなかったから、『スイングのときは腰をまわせ』って訳しちゃったんだよね。だから、なかなか上手いゴルファーが登場しなかった。松山英樹を見たとき、やっと体の使い方がいいゴルファーが出てきたなと思った」

清水:
「ゴルファーというより、アスリートな雰囲気ですよね」

平山:
股関節への意識が違うんだよ」

清水:
車の座席ひとつとっても、骨盤ひとつとっても、心地いいポジションが必ずある

平山:
「もちろんファッションも、体のあり方もね。そもそもが自由なものだし、日本人は実は柔軟だからもっとクリエイトしていけると思う」

清水:
「楽しくなりそう! 服に筋肉で表情を与えれば、どんどん着こなしが進化すると思うのですよ」

平山:
「女性がそうやって気持ちを切り替えていけば、男性だって変わっていくでしょ」

清水:
「女性の筋トレを褒めてほしいですね。そういう、良い光景が増えれば、社会が活性化しますね。これからも服と筋肉の関係、みっちり追求したいですね」

取材写真/ 高村 瑞穂
Photo by Getty Images

body_hirayama.jpg平山昌弘(ひらやままさひろ)先生
フィジカルディレクター/フィジカルトレーナー。STUDiO PiVOT 代表。旧ユーゴスラビア・ナショナルスキーチームのトレーナーをつとめるなど、プロスポーツ選手のトレーニングや女優、タレント、モデルのトレーニング、コンサルタントに携わる。日本人と欧米人の構造の違いを解剖学的な観点から見つめた分析には特に定評が。『魅せるカラダ』(KKベストセラーズ)など著書多数。

body_shimizu.jpg清水久美子(しみずくみこ)さんスタイリスト、ファッションディレクター。ラグジュアリー雑誌や広告で活躍中。クリエイティブディレクターとして商品企画やファッションにまつわる講演なども多数手がける。エレガントな王道のおしゃれにモダンさを加えたみずみずしいスタイリングには多くのファンが。年齢を重ねても美しく、さらに格好よく過ごすための着こなしを提案し続けているファッション界のパイオニア。