おいしいごはん、というのは「何を食べたか」ではなく「何を体験したか」で決まるのかもしれない。そう思わせてくれるのが、地方のコミュニティを軸にしたまちづくりに携わる山崎 亮さんの著書『地域ごはん日記』です。

心がゆるむエピソードの数々

0410_gohan_1.jpg「地域ごはん日記」は山崎さんが仕事で訪れた地域のレストランやカフェ、地域密着メニューを手書きのあたたかいイラストを添えて紹介している本。おもしろいのは料理そのものよりもそこで出会った人々や遭遇した出来事などにフォーカスして書かれているところです。都市部の画一化された飲食店ではまずありえないような、ローカル食堂の少しとぼけたエピソードが満載。読んでいると自然と心がゆるんでくる気がします。

たとえば、”来店人数で味が変わるほど正直な店”というタイトルがつけられた長崎県五島市「萬盛楼」のちゃんぽん。小さく家庭的なその店は、大人数で行くとその分スープの味が薄まるのだとか。

いつ食べても同じ味を出す店が増えた。それ自体は悪いことではない。しかし、それが行きすぎると、冷凍食品やレトルト食品を加熱して出す「いつでもどこでも同じ味」の店が増える。そんな時代に、つくり方が想像できるほど正直な店は貴重な存在になるだろう。

(『地域ごはん日記』P22より引用)

おいしいごはんの向こうに見えるもの

ほかにも愛媛県宇和島市の「やまこうどん」というお店は、元気で明るい女性店主はいるものの、常連のお客さんは自分たちでうどんをゆでてネギを切って、そのまま食べて代金を置いていくという、まさに完全なセルフサービスなうどんやさん。店主とお客さんの関係をコーディネーターと市民の関係に置きかえて、「まちのマネジメントもかくありたいものだ」と評されています

ローカルフードやレストランを取り巻く人間らしいエピソード。人と人とのつながりを生業にしている山崎さんならではといった視点が表れている文章。地方の「おいしいごはん」の向こうがわに、山崎さんは理想的なコミュニティの在り方を見いだしているのかもしれません。

心がほっこりあたたかくなるような『地域ごはん日記』。読んだ後はおいしいごはんを求めてどこか遠いところにふらっと旅に出たくなりました。

[『地域ごはん日記』]

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