わが家でいう休日は、土日が流動的なので、もっぱら「水曜日が休み」という体感でいる。それに平日が休みだと、どこに行っても比較的すいているのがいい。沖縄最大のショッピングモール、「イーオンライカム」でさえ、平日はどの店も並んでいない

ただ、本来の目的は、コザ(沖縄市)のさびれた商店街にあるタイ料理屋に行くことだった。近頃周りから「おいしかった」と感想を聞くことが続き、タイラヴァーであるわたしたちとしては行かない理由はどこにもない。すぐに見つかったそのタイ料理店は、なんと夕方5時開店だった。ランチ目的で来たけれど、「さてどうするか」と考え、とりあえず時間をつぶすにはうってつけのイーオンライカムに向かったのだ

ライカムのフードコートはマンウォッチングにうってつけの場所だ。多国籍な人々がおのおの食べたい料理を食べている。ナポリ風のピッツァ、韓国の海苔巻きやビビンバ、カオパット(炒飯)やパッタイ(焼きそば)などのタイフード、スタンダードなタイプの沖縄そば、ハワイに本店があるガーリックシュリンプ、産地を厳選したフライドポテト屋、他にもたこ焼き、牛タン、天ぷら、とんかつと、ありとあらゆる料理のブースが並んでいる。好きな料理を頼むと、その店の呼び出しベルを渡される。待つこと数分、ビビビビーというアラーム音で料理の完成を知らせる。

この形態のレストランの集合体をはじめて体験したのはバンコクだった。いや、違う。大久保の屋台村だ。テーブルにつくと、我先にという感じで各屋台からメニューがすっ飛んでくる。「コレ、オイシイ。ミンナ、オーダースル」と薦められるのは、トムヤムクンであったり、海南チキンライスであったり、生春巻きであったりする。ここでは、「じっくりとメニューを吟味する」というのがすごく難しく、「おすすめをそのまま頼む」というマジョリティルールにのっとらないと、「変な客が来た」と思われかねない。

バンコクのフードコートはそれはそれは広大で、清潔を飛び越えてほとんど無菌室のような雰囲気だった。食べ物の猥雑さと生々しさをそっくり取り除いたような料理の数々に、ただ唖然としたものだった。一歩外に出れば、あの雑踏があるなんて嘘みたいに感じる。そしてどこの店で働く人も、「メニューを持ってすっとんで来たりはしない」し、当たり前だけど、床には海老の殻や鶏の骨ひとつも落ちていない。

ライカムのフードコートも同じようにクリーンで、ざわざわという微かな人の声と例のアラーム音以外、音という音はほとんど聞こえない。フライパンをカンカンと鳴らす音も、麺をジャーっと炒める音も、肉をトントンと叩く音も。そんななか、1店だけジュージューと異彩な音を響かせている店があったグラムで肉を計って食べさせるステーキ屋だ。もう何年も食べてないなぁと思い、空腹もピークを迎えていたので、息子といっしょにやや奮発して、200gのヒレを焼いてもらった。そんなわたしたちに驚いた夫と娘は「ステーキ!? そう来たかー」と、同じものを注文しに行った。

まさかライカムでステーキを食べることになるとは。人生はまったく計りきれないものだ。久しぶりのミディアムレアは、噛み応え十分の肉らしい味がした。ライカムの後、ディナータイムに行こうと思っていたタイ料理だったけれど、もはやその夕飯すら入る隙がないくらいに、ステーキの存在感に圧倒されてしまった。

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