初めて訪れた、長崎は雲仙。

今年いちばんの寒波のなごり雪が、高速道路の両端にこぢんまりと寄せられていて、排気ガスで灰色に汚れてはいましたが、久々に目にする雪の珍しさに思わず「雪だ!」と声をあげてしまいました。

入り組んだ海岸線に田園風景、そしてあちこちからもうもうと立ち込める湯けむり。到着した小浜はそんな街でした。

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「種市大学」とは、雲仙市小浜で開催された、「種について考えよう」という一泊二日のリトリートです(昨年おこなわれた吉祥寺でのオーガニックマーケット「種市」の続編にあたります)。

主催である「雲と人」のおひとり、小浜在住の奥津爾さんから今回お誘いを受け、思わずふたつ返事で承諾しました。

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世に出回っている野菜の99%は、いわゆる「F1種」という種を使ってつくられています。この種は、あらかじめ出荷を考え形が単一化しやすいように改良を重ねてあったり、種子消毒されてあったり、いわゆる大量生産向きの種。

しかし毎年種を種会社から買わないとならないというデメリットがあり、農家さんにとっては毎年の種代も悩みの種、という方も少なくありません。

というのは、意図的に子孫を残しづらく改良されている種なのです。野菜を植えて、収穫して、収穫した野菜から種を取って、来年その種を植える、という自然のサイクルが、昨今ではとても貴重な行為になっています。

こうして脈々と種をつないでつくされる野菜が「固定種」と呼ばれるものです。それに合わせて、昔からその土地土地の特性を受け継いでいる地野菜のとことを「在来種」といいます。「種市」は、こんな野菜に焦点を当てて、「種とは?」と、みんなで思いを巡らす時間でした。

会場は、「雲仙観光ホテル」。歴史あるこのホテルの佇まいは素晴らしく、エントランスまでのアプローチからして胸がときめきました。

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豪華絢爛というより、きちんと丁寧に淹れられた紅茶のような品のよさがとても心地よく、当日通された部屋も、重厚な木造建築ながらあたたかみある落ち着いたトーンの花柄の壁紙が、いとかわいい。創業80年の文化の香り高い、格式あるホテルでした。

種×雲仙観光ホテル、という壮大なる融合が可能だったのは、ひとえにこちらのホテルの料理長、山本晋平シェフによるものがおおきいと感じました。そして何より、雲仙で30年以上の間、種を取り続けながら野菜を作っていらっしゃる岩崎政利さんの存在。

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山本シェフが、参加者120人分の料理を固定種、在来種の野菜でつくる、という奇跡のような食卓を前に、わたしはいつのまにか種について何かをあきらめかけていたんじゃないかとハッとしました。

事実、こういった野菜たちは流通に乗りにくく、たやすくに手に入るものではありません。毎日の食事を担う主婦として、いつでもどこでも買える野菜というものがF1種にかたよってしまうのも一理わかるのです。

それでもこんなふうに不可能を可能にする、という挑戦が実際に行われている。未来を描く輪郭がくっきりするようなディナーコースでした。

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黒田五寸人参、岩津ねぎ、万木かぶ、松ヶ崎浮菜かぶ、金町小かぶ、花芯白菜、源助大根……。

岩崎さんのお話のなかで、「人参は当初かたちのいい美人の人参ばかり採種していたんですが、それだとどうもうまくいかない。なので太っちょの人参や短いの長いのと、とにかくいろいろなかたちから種をとったら、おいしい味のいい人参が出来たのです。それはまさに多様性であり、いろいろな人間がいる社会そのもののようです」と、おっしゃっていました。

ひとつのことをじっくりと見つめるミクロの視線のなかにマクロがあるように、自分のこころと向き合う時間がふんだんに用意されている必要を感じました。

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