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石井ゆかり「手のひらの言葉」vol.4 意地悪

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石井ゆかり

石井ゆかり「手のひらの言葉」vol.4 意地悪

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日常にあるなにげない「言葉」をひとつずつ手のひらにのせて眺めてみる......そんなエッセイを石井ゆかりさんにお願いしました。今回の言葉は「意地悪」です。

MYLOHAS編集部さんから「お題」を頂いて書くコラム企画、

第4回目のテーマは、「意地悪」。

この言葉を前にして思いだしたのは、学生時代のバイト先で、女性社員に言われた一言である。

「いままで意地悪してごめんね」。

この頃、私はバイトしていた会社のオフィスで、半数ほどの社員から日常的に「無視」されていたのだった。私はこれを立派なイジメだと解釈していたので、「意地悪」といわれた時には、だいぶ違和感を感じた。いじめる、よりは、いじわるする、のほうが、なんとなく、軽い。

挨拶を返されない、会食や宴会にも呼ばれない、業務上必要な会話も最小限でぶっきらぼう。ひとつひとつは些細なことだが、半年ほどにわたるしうちはかなりこたえていた。ゆえに、この謝罪は単純に嬉しかった。彼女を、とくに責めもしなかった。お礼を言ったくらいだった。

彼女によると、「意地悪」は私がオフィスに入るより前に、彼女を中心として話し合われ、取り決められていたのだという。採用にあたり、社長がえこひいきのようなことをしたという噂がまことしやかに流れていて、そういうことになったのだと聞かされた。

彼女が謝ってくれたのは、飲み会のあと、終電を逃した彼女を、私のアパートに泊めたときだった。イジメに気づいた上司の意向で、形式的に参加させてもらった飲み会で、予想外に彼女らと打ち解けることができたのだった。「こんな普通の人だと思わなかった」と彼女は言った。一体どういう噂が流れていたのか、苦笑するしかなかった。

彼女や、「意地悪」に加わった人たちは、実際、ぜんぜん悪い人たちではなかった。むしろ、それからはとてもよくしてもらったし、いい人びとだったのだ。彼等は軽い気持ちで「ちょっといじわるしちゃえ」と思っただけだった。私がどんな気持ちになるかは、多分相当、軽く見積もられていたのだろう。

「意地悪」の原因はなにかネガティブな感情だろうと思いがちだが、これはもしかすると、少しちがうのかも、とあとで思った。

彼女は若く、非常な美人で、仕事も良くできる人だった。私を妬むいわれなどなかった。オフィスでも彼女は好かれていた。「みんなでいじわるしちゃおうよ」と言えば、先輩社員まで説得できる魅力を持っていたのだ。

意地悪するのは、基本的には、その人自身が周囲に受け入れられているからなのではないか。もとい、本質的には周囲に受け入れられていなかったとしても、「受け入れられるはずだ」「許されるだろう」と思えているからなのだろう。だから、いじめていた私の家に泊まり込み「ごめんね」と言えてしまうのだろう。

いじめ、いじわるの亜種に「悪戯」というのもある。

これには「罪の無いいたずら」とか「わるふざけ」などという派生形も存在する。

私も子供の頃は悪戯が好きだった気がする。黒板消しをドアにはさんでおいて先生が開けたとたんに落ちてくる、というような古典的な悪戯があるが、ああいうのはひととおり通ってきたような記憶がある。テレビ番組でもたくさんの悪戯が日々、量産されている。

人が困ったり驚いたりすることを、私たちはなぜ、おもしろがるのだろう。

反応してほしい、生な感情を見たい、通り一遍の表面の下に何があるのか知りたい、それに触れたい。もしかすると、そういうことが意地悪や悪戯のおおもとにあるのだろうか。私たちは礼儀や肩書きや権力やそのほか、様々なもので身を守り、内なるものを見せないようにする。それを「引っ張り出したい」という衝動が、人間の中にもともと、潜んでいるということなのかもしれない。

「キレイに装われた表面の下になにがあるのか、見たい」という思いがどこまで許されるか。この「許されるだろう」という見積もりが行きすぎたところに、深刻なイジメや犯罪が発生するのだろうか。

「相手が辛い、いやな思いをしているのではないか」という罪悪感を、多くの人が感じる。ゆえに、動物を殺したりすることを嫌がる人はたくさんいる。けれど、牛肉や豚肉を食べるときには、私たちは簡単に罪悪感のスイッチを切る。罪悪感のスイッチは、絶対的なように思えるけれど、わりとやわな、曖昧なものなのかもしれない。ことに、人が集団になったり、強い力に守られたりしているときには。

今私が住んでいる京都には「いけず」という文化がある、といわれている。

ストレートに物を言わない、褒めているようで実はけなしている、それが解釈できない場合、さらにバカにされる、といったようなコミュニケーションのありかただ。

でも、これは他所に行ってはなかなか、やりにくいだろう。京都の人が京都で、京都の人々の中でやるからこそ、成立している。たったひとりで外国に行ってまでこのスタイルを守ることは、なかなかむずかしいのではないか(やっている人もいるかも知れないが!)。

ストレートに物を言わないのは、他人との間に波風立てないためである。すなわち、集団を維持するためだ。しかし、言いにくい本音を相手にぶつけてみたい、という思いはある。そこに、「いけず」文化が出来上がったのか。

キレイに表面を作ること、その中にあるものに触れようとすること。

それはつまり、集団の中に受け入れられていること、罪悪感のスイッチを切ることと関係があるように思われる。

たぶん「意地悪」は、単なる「悪」とは少しちがっているのだ。

たとえば、映画のマッドサイエンティストのような単なる「悪」は、たったひとりでも遂行できる。でも「意地悪」は、ある人間集団がないと、成立し得ないものなんじゃないか、というのが、私の小さな仮説だ。

(文/石井ゆかり、イラスト/山本祐布子)

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