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愛が訪れるスペシャルストーリー「私はパンツ」8月2日はパンツの日

愛が訪れるスペシャルストーリー「私はパンツ」8月2日はパンツの日

私がゆりに出会ったのは8月2日。小雨のぱらつく夕方だった。

青山のランジェリーショップに到着したばかりの私を外からじっと見ている女がいて、それがゆりだった。店に入り、私を手に取った彼女に、オーナーはすかさず「新作ショーツ、レースがすてきでしょ」と声をかけた。

私は内心、こんな地味な女に私が似合うはずがないと思ったが、彼女はお揃いのブラジャーも試着したいと言う。あーあ、あんたにレースなんて似合いっこない。

オーナーが女のサイズをはかり、彼女はブラを手に試着室に入る。結局彼女は私たちを買った。安くないはずなのに随分奮発したものだ。家に帰ると、彼女は私たちを身につけて何度も鏡を見た。美人じゃないけどまあまあスタイルがいい。

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了解。確かに似合ってる。その日から私はゆりのパンツになった。

ゆりは、ずっと同じ会社で経理をしている。仕事ぶりはまじめ。ミスは少なく、面倒な仕事でも文句を言わない。毎日定時に帰るが、必要があれば残業もする。男性が多い職場は実用的な女を必要としているから、彼女はそれなりに重宝されていた。

彼氏もいない、趣味もないつまらない女だと思われているが、本人は気にしていないようだ。

ゆりは彼女なりに暮らしを楽しんでいた。料理好きで、上手くできると満足げだ。

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バスタイムには下着を専用の石けんで丁寧にあらう。陰干しした下着は、きっちり仕切ったクローゼットの下着ケースに収めている。医療ものの海外ドラマが好きで、いつも録画したドラマを見ながら爪の手入れをしている。

実はもう何年も同じ「おっさん」とつきあっていて、「不倫とかよくないよ」と諭す友達には「年上がラクなの」といつもテキトーに返している。

「おっさん」は、ゆりのマンションに、泊まったり、泊まらなかったりする。

ひとりぼっちはいやだけど、面倒なのはもっといや。都合良く甘えさせてくれる「おっさん」が、ゆりにはちょうどよかった。

「ママ、わたしは今の生活に満足してる。このペースでやって行きたいと思ってる」。母親からの電話には、そう答えていた。男のことは話さない。

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珍しくゆりが私をはいて会社に行ったその日、彼女は若い営業マンに声をかけた。「出張費の精算金額が合ってませんけど」。

いかにも「スポーツをやっていました」という雰囲気の大柄な男が「スミマセン!」とビビった様子を見せた。

その営業マン、木元は、見た目に反して体力まかせにガツガツ営業するタイプではない。地道に商品知識を身につけ、しっかり客に耳を傾ける。相手に信頼されると、話が早い。ゆりの好みではなさそうだけど、私は木元を好ましく思った。

夜、残業中のゆりがひとり残るオフィスに、木元が戻ってきた。書類を手に口を開こうとする木元に、ゆりは、顔も上げず「置いといてください」と言う。

ゆりのそっけなさがしゃくにさわって、私は木元のココロに命令した。

「ゆりを、誘って!」

パンツはときどき魔法を使う。

一旦離れた木元が急に振り返り「この後、一杯どうですか?」と言った。「トラブルがあって、ちょっとヘコんでるです」と付け加えた。

言わせてやった。私も暑気払いしたい気分だったから、ゆりにも「いいですよ」と言わせた。

ふたりは会社の向かいのビルの居酒屋に入った。木元はビールと唐揚げを注文した。言葉もなく座っているゆりに、木元は「僕、ゆりさんと話してみたかったんですよ」と言う。

(あー、営業マンて感じ。思ってもないくせに)。

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上着を脇に置いた木元は、上司に報告でもするように、今日起きたことをゆりに話した。ゆりの会社は電子カルテと連携するソフトウエアを販売している。納品した製品の仕様について誤解があったらしい。伏し目がちに淡々と話す日焼け顔の男は、しょんぼりした柴犬のようだった。

ゆりは、ゆっくりビールを飲みながら、じっと吸い込むようにその話を聞いた。そして、それぞれの状況を整理してから、一息おいて「要するに、お客さんはまず事実を正確に知りたいんだと思う」と言った。

「やっぱり、そうですよね」。2杯目のビールに突入した木元は安心したような様子で言った。気をよくしたのか、ゆりも追加でビールを頼んだ。

翌週末、ゆりはめずらしく「おっさん」と外で食事をした。新宿のイタリアンレストランでおっさんの娘の話を聞きながら、ゆりは突然「もう、私は、この人と一緒に食事をしたくない」と思った。

食後酒を頼んでいるおっさんを横目に「ごめん、ちょっと疲れてる」と、タクシーに乗った。

ほどなくして、ゆりは「おっさん」と別れた。

おっさんは、ゆりにとってはもう空気のような存在だったから、いざ別れてみると、まるで酸素がなくなったみたいに苦しいときがあった。寂しかった。

おっさんの持ち物がゆりのマンションから消え、たわいのない会話が消えてしまった以外は、何事もなかったように毎日が過ぎた。何も変わっていない。でも空気が変わってしまった、とゆりは思った。

暑さの残る9月のある日、オフィスビルのエレベーターで木元に会った。「相談のってもらったのにその後の話、できてなかったですよね」。忙しい木元のことだ。ゆりとしゃべったことなど忘れていたのに違いないと思っていたら、案外律儀だ。

「今日、どうですか?」エレベーターが6階に着く。

ゆりの返事を待たず「7時に、この間の店で!」と言いながら木元は降りる。がっしりした背中がオフィスに消える。

ゆりが私につぶやいた。「ねえ、こういうのもありかな?」

[ワコール「Happy Pants Day 8.2」]

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イラスト/塩川いづみ、文/マイロハス編集部・遠藤

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