緑豊かな風景でくつろぐ露天風呂は、理想のホリスティック
夕食前に二人は露天風呂へ。
そこは新緑がまぶしい天然温泉だった。
山々に囲まれて緑豊かな風景に、さおりは心を打たれた。
「黄金の湯」といわれている伊香保の温泉に美の世界が広がっていく―――。
さおりは芯から温めてくれる湯の中で
オサムに捧げた愛が、ゆっくりと解体していくのを感じた。
会席料理と日本酒…二人の夜は続いていく
名湯で肌がツルツルになったさおりは上機嫌で部屋へ戻った。
貴賓室での夕食は旬の彩と香りをいかした会席料理。
まるで工芸細工のような前菜の数々に、感嘆の声を挙げる二人。
前菜を肴に久しぶりに日本酒を燗で呑むと、時間の感覚がなくなり、古の人たちが愛したというこの温泉宿にかつて宿泊したようなデジャブな感覚にさおりは襲われた。
椀、お造り、と運ばれ、上州牛のすき焼きが出てきたときに、アキオが嬉しそうな声を挙げた。
「すき焼き、好きだったの?」と聞くと、アキオは子どものように無邪気な顔で、
「うん」と頷いて、さおりにも鍋からよそってくれる。
「子どものようね」とアキオの顔を覗き込むと
「ときどき」と、またいつもの不器用な男の表情に戻る。
煮物、焼き物、酢の物、と続くうちに日本酒もすすみ、上州名物切り込みうどんの頃には、すっかりほろ酔い気分になった。
食事は終わったが、二人だけの時間はまだ続いていた。
日本酒をさらにもう一杯、と燗をお猪口に近づけようとしたら
「呑みすぎるなよ。体に悪いぞ」とアキオ。
明日から体のことを気遣ってくれる人がいなくなるかもしれないと思うと、さおりは急に淋しくなった。
「ねえ、私たち、本当につきあうのかな?」
さおりはアキオの顔をまざまざと見つめた。
日本酒で少し頬を赤らめたアキオが、
「うん」と頷いた。
それは肯定でも否定でもなかった。
「それともこのままなのかな?」
そう聞いても、「うん」。
歴史の重みのある伊香保の街が、不器用な男を優しく包んでいるような気がして、
さおりは貴賓室の窓を開けた。
夜が一段と更けてきて、樹木の緑が夜風に吹かれて揺れた。
さおりはアキオをまた温泉へと誘いたくなった。
(テキスト/夏目かをる)
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決められない二人だから、温泉旅館へ



