決められない二人だから、温泉旅館へ
「二人で出かけるのもいいかもしれない」。
どちらかからともなく、さおりとアキオは旅館を選んだ。
高校時代から、すれ違いの三人の恋が行ったり来たり…
さおりはオサムのことが好きだったが
オサムはそんなさおりの気持ちをもてあまし気味だった。
アキオがさおりのことを好きでも
さおりはオサムに夢中で…。
オサムとアキオは親友なので
さおりの知らない男の友情があったわけで…
さおりは他の誰かとつきあうことがあっても
必ず心はオサムに戻り、今度こそ自分から告白しようと思うけど
チャンスに恵まれず…
一人で苦しんでいるのに、オサムは黙ってさおりを見ているだけ。
そのうちとうとう、アキオが他の女と電撃結婚した
気がつくとオサムに恋焦がれて10年。
さおりには、男性といえば今ではアキオしかいない。
でもアキオはさおりの恋人でも何でもない。
アキオはさおりに申し込むわけでもないし、さおりも同じだった。
きっと恋の情熱はオサムに全部捧げてしまったのだろう。
だからアキオと二人きりになると、何かが抜けて落ちてしまったように、さおりは全てが物悲しい。
アキオはオサムの親友で、オサムがいたからこそのアキオなのだ。
「アキオとも別れるかもしれないし、このままかもしれない」
決めることができないから、さおりは伊香保温泉の福一へ向かった。
最初で最後かも知れない二人は、貴賓室へ
ここは万葉の頃から文人たちに慕われた街・伊香保。
歴史に培われた温泉宿で、最後の夜を過ごそうと貴賓室を選んだ。
最上階の貴賓室は、榛名の山々を一望できる部屋だった。
時間が止まったような静謐な空間で、さおりは一服のお茶を堪能した。
口の中でゆっくりとお茶の甘さが広がっていく。
アキオより一足早く到着したさおりは、たった一人佇む時間に、遠い日の思い出のような郷愁を覚える。
10年間、オサムだけしか見ていなかった。
そのことがきっとオサムには重かったのだろう。
馬鹿な私…
ふと、さおりは涙をこぼした。
愛しすぎて、好きな男に疎まれるなんて…
そのとき静かに襖が開いて、アキオが入ってきた。
「泣いていたの?」
さおりはあわてて頬に伝わる涙をハンカチで拭った。
「ううん、目にゴミが入っただけ」
「そうか」
アキオはぼそっと呟いた。
日に焼けてがっしりしているアキオなのに、なぜかこの貴賓室では部屋を際立たせてくれる花瓶のような気がした。
最初の一言が出てこなくて、アキオが照れ笑いをしたときに、やっとアキオという男の存在が身近に伝わってきた。
>>次へ
緑豊かな風景でくつろぐ露天風呂は、理想のホリスティック



