天然温泉の絶景、体に優しいオーガニック懐石料理で二人の心も柔らかに
夕方近くになって、目を覚ました賢治は、「疲れた」と弓枝を天然温泉へ誘った。
温泉の脱衣所の床もオーガニック素材という気づかいに感動する弓枝。
一方賢治は、四方の海を一望できる天然温泉で、感嘆の声を挙げていた。
「自然が近くにあるから心も癒される。さすがオーガニックホテルだな」と嬉しそうな賢治。
久しぶりに賢治が笑顔を浮かべる。弓枝も微笑んだ。
夕食はYUIの家に併設しているオーガニックレストランで。
全て料理長手作りというオーガニック懐石は、無農薬、低農薬野菜・天然魚・県産無農薬米・完全無添加調味料を使用と、その温かなもてなしに、二人とも初めて出会った頃の気遣いさが甦ってくる。
「最近デートすっぽかしばかりでごめん」。
謝るのが大嫌いで、いつも俺について来い!の賢治が、今日はとても素直だ。
「私もそのたびに不平を言ってごめんね。賢治のことが好きだから、つい」。
と頬を染める弓枝。
つきあって3年になるのに、「好き」という言葉が新鮮で、ますます賢治のことが愛しくなる。
ホリスティックなYUIの家で、愛の告白
「海を散歩しようか」
オーガニックレストランを出て、賢治が弓枝の腰に手を回したときだった。
賢治の携帯電話が鳴り始める。
電話は上司からで、明日早朝に帰って出社しろという命令。
「ごめん」
と賢治は謝ったが、弓枝はこの時、自分がどうしても物分りの良い女になれないことを知る。
「せっかく二人でYUIの家へやってきたというのに!」
弓枝は賢治を振り払って、一人で海へ向かった。
涙が次々と湧き出てくる。
どうして…どうしていつも仕事が優先なの?私よりも仕事が大事なの?
今まで仕事に打ち込んでいる男に、そんな質問をしてはいけないと自分を抑えていた。
でも、もう理性で恋心を無視するなんて、できない。
賢治にそばにいて欲しい。
弓枝は流れる恋の涙を払わずに、黙って海風にさらされたままでいた。
悲しいけど、どこか穏やかなのは、恋の気持ちに正直になったからだ。
ふと気づくと、後ろに賢治が立っていた。
「弓枝、ごめん!仕事は一日伸ばしてもらった。明日まで一緒に過ごそう」
弓枝は嬉しさのあまり、泣き顔で賢治の胸に飛び込んだ。
波の音が二人を優しく包んでいた。
翌日――
チェックアウトの後で、YUIの家で行われたウェデングパーティを眺めながら、弓枝はふと賢治の顔を覗き込んだ。
りりしい顔に、清々しい表情。
自分が愛した男がここにいる。
「結婚して」。
思わず出てしまったプロポーズの言葉。
賢治は頷いて、弓枝を強く抱きしめた。
(テキスト/夏目かをる)
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