仙石原の大自然を堪能。
無邪気な彼にいつのまにか笑みがこぼれて…
翌朝―――
「うわ〜すごい〜」
窓からの絶景に、リチャードは歓声を挙げた。
仙石原の大自然は、まるで絵画のように美しく、彼方に見えるゴルフコースの緑の芝生がまぶしく光っている。
「ここでゴルフをしたら最高だね」
「そうね。ホテル前に広がる大箱根カントリークラブ の18ホールは全て手作りのゴルフコースだそうよ」
「ふ〜ん。日本でゴルフカントリーを眺めることができるなんて、意外だなあ」
リチャードは朝の新鮮な空気の中を深呼吸した。
そして「恵美子、ブレックファーストタイムだよ!」
と子どものようにはしゃいで、階下のグリルへ駆け出した。
ホテルのインテリアは、部屋ももちろんスペインから取り寄せた家具調度でクラシカルな雰囲気をかもし出している。
高い天井でゆったりしたレストラン・グリルでブレックファースト。
窓の外にある外輪山がくっきりと美しい稜線を描き、印象的な朝の風景が私たちを幸せにしてくれた。
「“プラ デュ ジュール”というフランス風レストランも良さそうだね。和風にアレンジしたフレンチも食べたかった。昨夜もっと早くくればよかった」
あんなに和風の老舗旅館がいいと不平を言っていたのに…
恵美子は何だかおかしくなった。
変に頑固ではなく、自分の感性を大事にするリチャードが好ましかった。
近隣の美術館でリッチで優雅な気分。
いつしか二人の心は一つに……
朝の新鮮な空気の中で、ゆったりと優雅なひとときを過ごした後で、二人は箱根の美術館めぐりを。
芦ノ湖と杉並木を見おろす丘陵にある現代日本画専門美術館・成川美術館で、現代日本画にも興味を示すリチャード。
「日本人よりもリチャードは日本が好きよね」
と言うと、嬉しそうに笑う彼。
箱根ガラスの森で繊細なヴェネチアン・グラスの世界を。今度は恵美子の方が感嘆の声を挙げ続けた。
花が咲き乱れる庭園のカフェでティーを注文してから、恵美子はリチャードに申し込んだ。
「ねえ、私たち、日本で暮らしましょうよ」。
これまでなかなか言えなかった言葉だった。でも今日は素直にすらすらと自分の気持ちを伝えることができる。箱根の大自然が勇気をもたらせてくれたのかもしれない。
「私にはリチャードも日本も必要なの。どっちかなんて、選べない」
恵美子の瞳に熱がこもった。
リチャードは頷いて
「僕も考えているよ」と、テーブルの上で恵美子の手を握った。
「それにしても」
とリチャード。
「どうしたの?」と私が尋ねると、
「ホテル大箱根のメインバーのうたい文句が“シックな英国調の雰囲気”って気になるんだけど、バーへ行ってみる?お酒を楽しみながら、二人のことをゆっくり話そうよ」。
リチャードが幸せそうに微笑んだので、恵美子も微笑み返した。
(テキスト/夏目かをる)
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