海の恵みをとり入れたスパ・トリートメントに癒されて。
孝雄と再会したその日は、仕事で様々なハプニングが起こり、みどりは疲労感をかかえてグランドプリンスホテル広島にチェックインした。
すぐにスパでトリートメントに予約を入れ、いつものセラピスト・田辺さんに頼んだ。
スパ・ザ・ブルーは穏やかな瀬戸内海に包まれた空間で、窓から潮風が漂ってくるような錯覚さえもたらす。
地中海の高級リゾートスパにいるようなセレブな感覚がまた心地よい。
その日のトリートメントは90分のエナジャイジング アロマ マッサージ。
アロマの香りとゆったりとしたストロークのハンドテクニックが、深いリラックスにより軽やかな身体を取り戻してくれる。
みどりはうつぶせになりながら、田辺さんに「元カレに会ったのよ」と今朝の出来事を打ち明けた。
「元カレ、落ち着いていたわ」
そう、確かに5年前に別れた孝雄とは別人のようだった。余裕があるというか、孝雄本来の穏やかな気質がにじみ出ていた。
「友達の紹介で付き合いだしてすぐに、彼が故郷の広島へ帰ろうかと悩んでいることがわかったの。その頃の私は結婚願望バリバリで、彼のことが頼りなく思えたのね。医者と付き合うというだけで舞い上がっていたけど、急激に冷めちゃって、それで自然消滅」
田辺さんはうなずきながら、いつものようにトリートメントを続けている。
「もう5年前のことだしね」とみどりは確かめるように付けたすと「ではもう終わった恋なのですね」と田辺さんは言った。
みどりは部屋へ戻ってからもその終わった恋のことを考えていた。
ふと思い立って、みどりは孝雄に電話をかけてみた。
携帯番号は変わっていなかった。
孝雄はすぐに電話に出た。
穏やかな口調だが、懐かしさが溢れている。
「私は月に2回ぐらい広島で仕事をしているの」
「僕は来月学会で上京するよ。よかったら食事でもしよう」。
思いがけない誘いに、みどりの心は弾んだ。
窓から深夜の瀬戸内海を眺めた。
海は静謐で、みどりの高鳴る鼓動をゆっくりと静めてくれた。
月日の流れが二人を変え、瀬戸内海のような穏やかな恋心が芽生えて…
「最低の再会だったのよ、田辺さん」。
次の滞在のときに、みどりはスパでセラピストの田辺さんに海のミネラルたっぷりのトリートメント、リフレッシング・マリン・スクラブを施してもらいながら、再会した東京での夜の出来事を話した。
「食事してバーでお酒を呑んでいるうちに、彼が私のことを昔は結婚願望の塊のような女性で、東京にはこういう女性が多いのかと失望したというのよ。だから私、怒って帰ってきちゃった」。
「今はお仕事にやりがいを感じているみどり様に安心して、昔話をしたのかも知れませんね。」
「そうかなぁ?」
みどりはうつぶせの体を思わず起こすと、田辺さんは少し微笑んでいた。
みどりは部屋に戻ってから、さっそく彼に電話をして謝罪した。
「僕は別に気にしていないよ」
「ほんと?」
「うん。それにしても君のほうから謝ってくるなんて。やっぱり変わったね」。
「あなたもね」
一瞬、二人とも黙ってしまった。
二人の間に途絶えていた時間が、再び流れ始めたような気がして、みどりは携帯を耳にあてながら、窓際に移動して夜の景色を眺めた。
「また広島で」
と言いかけたときに、まるで瀬戸内海のような穏やかで切ない恋心が、みどりの心にゆっくりと広がっていった。
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空と海に囲まれた朝食、展望露天風呂にホリスティックなスパでホテルライフを満喫



