8年前に恋人と訪れた八ツ三館に、年下男が背伸びして予約
飛騨高山で達也と待ち合わせをしたのに、達也が運転する車が向かったのは、飛騨古川だった。
「飛騨古川に、川べりの桜を眺められる料亭旅館があるんだ。やっと予約がとれたよ」
と嬉しそうな達也。
飛騨古川、川べりの桜、料亭旅館と聞いて、絵里ははっとした。
8年前にカメラマンの元春と一緒に訪れた『八ツ三館』――あの温泉旅館の窓から二人で満開の桜を楽しんだ…。
でも偶然なんかないわと不安を打ち消して、雑誌編集長の絵里は「それは素敵ね」と運転席の達也に微笑んだ。
絵里よりも3歳年下の達也は、時々背伸びをして絵里を喜ばせようとする。
料亭旅館も達也が絵里のためにワンランク上を探したのだろう。
絵里は幸せだった。
車が旅館に到着した。
まさか、と絵里。
歴史の重みを帯びた木造家屋の玄関先に掲げられた行灯が、ぼおっと『八ツ三館』という文字を浮かび上がらせていた。
8年前の、あの宿!
思わず足がすくむ絵里。
「行こうよ」と達也が促したので、あわてて絵里は玄関に入った。
「いらっしゃいませ」
挨拶に出た和服の女将さんも仲居さんも、そしてフロントにいる若主人も、8年前のままだった。
「こちらへどうぞ」
仲居さんの案内で、休憩室からシアタールームのある廊下を渡り、左折して小さな階段を昇った。
「まさか…」
部屋は2階手前の『清華』。
8年前、元春と一夜を過ごした部屋だった。
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しっとりとした情緒、芸術品のような懐石料理。二人の恋の思惑が絡み合って…



