先日、病院に勤務している方からこんな話を聞きました。
ある日、その病院に一通の手紙が届いたのだそうです。
「いつも大変お世話になっている者です。それにもかかわらず、
このようなお手紙をお送りして申し訳ないのですが、そちらの
玄関の入り口の横にある段差でつまずく事が何度かあり、気に
なっております。どうにかして頂く事は出来ないでしょうか。」
という感じの内容で、名前はなく匿名だったそうです。
もし自分の名前を記入すると、逆に病院側が気を使ってしまう
のでは、という思いで、その手紙を書かれた患者さんは匿名にし
たのだろう、という話でした。それを聞いて、私は本当にしみ
じみ良い話だなぁと思いました。正しい「匿名の使い方」だなぁ
と思ったのです。
昔からある事だと思いますが、特にインターネットが普及して
からは、情報が氾濫して、不当に傷つけられる人や事件などが増
えているように思います。その原因の一つは、匿名の使い方を間
違える人が多くなったからではないでしょうか。
自分の為というより、相手の為に名前を伏せる、という心遣い
が出来たら、匿名も生きるのですね。
その手紙を書かれた方は年配の方であろうという事でしたが、
その話を聞いて思い出した事がありました。
私がまだ10代の頃、アルバイト先に、おまんじゅうをくれた
り一緒に立ち話をしたりして、とても親切にしてくれた、お掃除
のおばあちゃんがいました。ある日の夕方、冬でもう館内が暗く
なってきた頃、もう勤務時間は終わっているはずなのに、おばあ
ちゃんの影を見つけました。まだ一人残って掃除をしているので
す。私が電気をつけて、どうしたのかきくと「やりかけで帰るの
落ち着かないのよねー。」とおばあちゃん。アルバイトをしてい
た若者達は、私も含め、勤務時間が終わった瞬間にすごいスピー
ドで帰る勢いだったので、私は凄くハッとしてしまいました。
その後、一緒に荷物の移動をする事が一度あったのですが、男の
子が階段の踊り場で、「すんげえ重てぇ。ダメダ?」とヘタレて
いるのに、おばあちゃんは何と一気にその子を抜かして階段をス
タスタ・・。ほんとうに驚きました。あのパワーはどこからくる
のだろうと思ったけれど、よく考えると理由は分かる気がしまし
た。おばあちゃんは、”思いやる”という事をずっと大切に生き
てきたから、体もきっと強いんだなと思いました。
もう一つ、思い出した事があります。私の祖母です。
私がまだ6歳くらい、ほんとうにちっちゃい頃、祖母の家に時
々お泊まりに行けるのをとても楽しみにしていました。朝昼晩の
ご飯を運ぶ前に、テーブルの上を布巾で拭くのが私の仕事です。
いつも祖母に、「木目に沿って拭きなさいねー」と言われなが
ら、小さい手で背伸びをして拭くのが楽しみでした。ある冬の日
いつものテーブルはコタツに変わっていました。いつものように
布巾で拭きましたが、コタツの上に載っている板は木製ではない
ので、何となく端から拭きました。すると祖母は「木目に沿って
拭くのよー」といつものように。私はちっちゃいながらも、コタ
ツの板の年輪の模様はプリントだと分かっていたので、何でかな
・・と思いました。でも、何だか分かった気がしました。それで
祖母の事がもっと好きになったのです。
この3つの話は、一見関係ないようですが、私の中では共通
していて、私が昔から年配のひとばかりに憧れるのは、こんな思
い出が重なっているからなのだなあと思いました。そんな事を思
ったこの頃でした。
大好きな祖母といっしょに