「おばあちゃんあれが好きなの。赤ん坊が食べる、小さくて丸くて、口に入れるとすぐに溶ける、みのりも好きだったお菓子」。電話先で祖母からそんな話を聞いたのは15年以上前。まだ京都に住んでいる頃でした。

「おばあちゃん、京都からなにか送るよ。おつけものがいい?八つ橋?他の和菓子?」敬老の日を前に祖母に電話をかけて、食べたいものを尋ねたところ、返ってきたのは思いがけない答え。祖母の所望はタマゴボーロだったのです。

恥ずかしながらタマゴボーロは、小学生の私がずっと食べていたお菓子。「それ赤ちゃんが食べるのだよね」などと友人に笑われても、口の中でまったり溶けてなくなるまでや、刺激のない優しい甘みに、子どもながらほっと一息つけたのです。中学生になると恥ずかしさが勝り、母にねだることはなくなりましたが、タマゴボーロは今でも変わらず好きな味。意外や祖母も好んでいたとは。

本当は京都らしいなにかを送るつもりでしたが、その足でスーパーへ赴き、タマゴボーロを数袋。自らラッピングしたものを祖母の元へと送りました。以来、年に数回、祖母が施設に入所するまで、手紙とともに祖母へタマゴボーロを送る習慣が始まりました

北海道で見つけたタマゴボーロ

少し前の北海道の旅の途中、スーパーで地元の食材を探していたところ、お菓子売り場で目にとまった、池田食品株式会社タマゴボーロ。偶然にも翌日、創作豆菓子の取材へ伺う予定の菓子メーカーだったので不思議な縁を感じたのと、袋のデザインが愛らしいのと、なにより祖母を思い出し、買いものカゴの中へ。祖母が入所する施設には、食べものを持ち込んではいけません。おやつもちゃんと施設で考えられたものが用意されているのです。そのため、タマゴボーロを買うのは数年ぶり。東京に帰ってからはなんとなく、封を開けることなく台所に置いていました。

先日、祖母が103歳で天国へと旅立ちました。大正生まれの大往生。家族みんなで「長生きしたね」と明るく送り出しました。葬儀の手伝いで一週間も静岡の実家で過ごすのは実に10年以上ぶり。祖母らの贈りものです。

初七日を終えた日、おやつにしたのは、祖母と同じ大正生まれのタマゴボーロ。材料のじゃがいもでんぷん、脱脂粉乳、たまご、砂糖は北海道産。普通ボーロを作るのに小麦粉を使うところ、じゃがいもでんぷんを代用することで、より口溶けがよくなるそう。祖母との思い出の味を口にしながら、「お墓まいり、久しぶりのタマゴボーロを持っていくね」祖母に約束したのです。

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