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私がまだ子どもの頃には、父や母が結婚式の引出物に、鯛の形の砂糖菓子を持ち帰ることがありました。「きれいだねー」と家族みんなで言い合いながら、ひとしきり愛でた後、麺棒などでとんとんと砕き、煮物やジャムや料理の材料に使っていました。

あの美しい砂糖菓子を「金花糖」と言うのだと知ったのは、おとなになってから。手間がかかり、砂糖をかたどり色をつけるのに技術も要することから、金花糖をつくることのできる職人さんがぐんと減ってしまったそう。

数年前に『お菓子の旅』(主婦の友社)という本をつくったとき、江戸時代から桃の節句や結婚式に金花糖を飾る風習がある金沢のお菓子屋さんで、金花糖づくりを取材させてもらったことがあります。砂糖と水というシンプルな材料ながら、なんとも繊細な作業工程。鯛や、招き猫や、おめでたいモチーフがあるのですが、だからこそ出せる妙味に満ちた表情。それからというもの、ことあるごとに、金沢から金花糖を取り寄せするようになりました。

西荻窪「喜久屋」の金花糖

こちらは、西荻窪の「喜久屋」で、桃の節句が近づ頃に並ぶ金花糖。他に、エビや、魚や、果物や、様々な種類があった中、私が選んだのは招き猫ふたつ。

3月3日までは、おやつの時間に食卓の真ん中にちょこんと置いて、目にも甘いひとときに。

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