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こんにちは、フォトグラファーの柳原久子です。野菜のできるようす、作る人の想いを伝える連載第3回目は栃木県茂木町のたまゆら草苑です。畑をなるべく耕さない、草を取らない、肥料も与えないで野菜や雑穀、米を育て、工房ではパンやお菓子を作るたまゆら草苑。ご夫婦のていねいな暮らしもステキ、といううわさを聞きつけ訪れました。

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遠くに山々が見渡せる里山のなか、赤い屋根が豊口家の目印。

「おはようございます!」冬の寒い朝、ガラリと戸を開けると明るく迎えてくれたのは豊口安紀(やすのり)さんと妻のかほさん。築130年という古民家の中は薪ストーブのおかげでポカポカです。「ニンジンジュース、よかったら飲みませんか」。ちょうど安紀さんが作っていたのは100%自家製ニンジンジュース。ニンジン本来の味がギュギュッとしぼりだされびっくりするほど甘く、冬野菜の力強さを感じる一杯。ありがたくいただきました。

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薪ストーブで火をつけた豆炭あんかを仕込み、こたつの中へ。暖かさは翌朝まで続く。

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今日の豊口家の朝ごはんはこのニンジンジュースのみ。冬の野菜は寒さで凍らないようみずから糖度をあげ身を守るため甘い。

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ふと窓辺に目をやると野菜がごろり。「これはタネ採り用の青ナスとトマト、オクラです。収穫してから時間をかけて追熟させてタネを採るんです」。一番陽あたりのよい場所に野菜があるってなんだかかわいい風景ですね、野菜への愛情を感じます。

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うっかりこのままこたつでユルユルしちゃいそうなので長靴にはきかえ、いざ畑へ。安紀さんと一緒に軽トラで走ること5分、畑に到着です。おやっ?よくみると野菜は雑草に囲まれながら育っています。雑草に栄養が取られたり野菜の成長をジャマしたりしないんでしょうか?「ムダに生える草は無いんです。草には草の役割があります。たとえば土が酸性にかたむくとスギナが増える。スギナには酸性を中和する働きがあるんです」。人が手を加えなくても自然にはバランスを取る機能があるんですね。

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「虫の発生も同じこと。わざわざ虫取りしなくてもバランスが取れていればそんなには被害にあいません」でもウチの小さな菜園でもアブラムシが大発生したり青虫でキャベツが全滅したりで困ってますけど…。「微生物のバランスがとれていない、土地に合っていないなどのストレスが大きいと特定の虫が大発生します。虫はその土地の生態系にふさわしくない植物を食べてくれる掃除役なんです。野菜のSOSサインを嗅ぎ取って余分なものを食べる。特に弱っている野菜が好きですね」。肥料が多すぎてアブラムシが発生していたんでしょうか?野菜のため、と思って手をかけていたことで土がバランスをくずしていたんですね。

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畑はなるべく耕さない。前の作物から次の作物へとつなげていく。

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南部小麦。

「反対に鳥とか動物は元気で美味しそうなものを食べるんです。人間より先に。今年はトウモロコシは誰かに全部取られちゃって僕たちは一本も食べられませんでしたよ(笑)」。誰かって何の動物でしょう?そうとうおいしかったんでしょうね。

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オクラの足元にはスナップエンドウが芽を出し春を待つ。

そろそろ私もお腹がすいてきました。おうちへ戻るとかほさんがお昼ごはんの用意をしてくれています。「今日のごはんは石臼で挽いた赤とうもろこしのハンバーグと30分じっくり焼いた信州支那青ダイコンのステーキに麹ソース添え、たまくりカボチャとヤツコイモの蒸しものと…」うわぁ、どれもていねいに作られていておいしそう!「食材からほぼ手作りです。麹も味噌もしょう油も。買ってきたものは塩と昆布くらいですかね(笑)」。いただきます!野菜からダシを取ったという味噌汁もじんわりと甘みがあってカラダに染みていきます。ひとくちひとくちに素材の力強さを感じるごはんです。

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蒸したたまくりカボチャとヤツガシラのコイモ。ねっとりとコクがある。

「作物が『元氣』に育ち、それを食べる人も『元氣』になって喜んでもらいたい、そういう気持ちで野菜を育てています」。安紀さんは元整体師。病気のひとを治す手助けをしたい、という想いから野菜を育て始めたそうです。なんだかここで生活したら私の職業病の肩こりも治りそうな気がしてきました。

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軒先につるされた赤とうもろこしと黒とうもろこし。乾燥させ粉にしてお菓子など加工品を作る。

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国産のうるちあわは希少だそう。6、7種類の雑穀を育てている。

ところでおふたりの出会いが気になります。「私は宿泊しながら農業体験ができるウーファーとして農作業を手伝いに来ました。1週間の予定だったけれど帰るころにやす(安紀)さんが『もっと居てもいいんだよ』って」。笑顔で話すかほさん、ほのぼのとした雰囲気でファンも多そうです。「古民家の冬はとても寒くて。でも窓や床に布をかけたり敷いたりしてだんだん暖かくしていきました。体質も変わっていったので、つらかったしもやけも最近はできませんよ(笑)」。居心地がよいのはかほさんのおかげだったんですね。

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温かいお話も聞けて心もおなかも満足、さて午後の仕事に出発です。「今からニンジンを植えにいきますよ」。軽トラに積み込んだのは数十本のおいしそうなニンジン。これを再び植え直してタネを採るそうです。タネはいつ出来るんでしょうか?「花が咲くのが6、7月、タネを採るのは8月です」。ニンジンの種蒔きは7月、ということは1年以上!ずいぶんと手間と時間がかかって大変な作業です。

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凍らないように最後にわらをかぶせる。

「こうやってニンジンを植える日やタネを蒔く日、収穫する日は星座や惑星の位置関係を見て決めています」。作物の成長に宇宙が関係しているっておどろきです。農業って神秘的ですね。こういう農法はどこかで学ぶんですか?「いろいろな農場で研修して学びました。けれど人から聞いたり本で読んだことってヒントにしかならない。いちばんの基本は自分の畑や自然から教わりました。作物が何を求めているか、いちばん大事なことは作物から直接感じること」。日々の農作業から学ぶことが大切なんですね。

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赤ネギ。

「育った野菜は必要な分だけを収穫、あとはほかの生物や微生物を養うために畑に残しておく。人間の都合に合わせない、作物に寄りそった農法は生産量は低いです。でも質の高い農産物を作りたいから」。ホームページなどで宣伝をしないたまゆら草苑。野菜を食べた人が『おいしいから』、と人にすすめていき、じわじわと評判が広まりました。

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みとよ白肌ゴボウの収穫。

「春になると畑の片隅にまいた数十種類の花が咲き始めます。最初はタネを蒔くんだけどあとは毎年毎年こぼれ種から芽が出て花が咲く。これがほんとうにきれいで。毎日美しい風景がみられて幸せです」。野菜畑に色とりどりの花が咲く風景、見てみたいです。暖かくなったらまた訪れますね!

取材を終えて

後日、野菜を注文すると、葉が虫に喰われていたり不揃いだったりするけれど力強い野菜たちが届きました。”肥料を使わないで野菜ができる”なんて不思議でしたが土の中にはたくさんの可能性がつまっていることを知りました。

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野菜だしのお味噌汁のレシピ

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◆材料

干し椎茸、生椎茸、ネギ、切り干し大根、切り干しキクイモ、タアツァイ、塩、みそ

◆作り方

1. 干し椎茸を一晩水で戻す

2. 鍋に干し椎茸の戻し汁、細かくきざんだ生椎茸、ネギ(ひげ根と白いところ)、切り干しダイコン、切り干しキクイモ、塩ひとつまみをを入れ、弱火でゆっくり火を通す。

3. 野菜の甘みが出てきたら火を止め、味噌を溶きいれる。

4. きざんだネギ(緑のところ)、手でちぎったタアツァイを入れる。  

たまゆら草苑の野菜を買える場所

ナチュラルフード森の扉

たまゆら草苑の加工品を買える場所

道の駅もてぎ

たまゆら草苑(電話&FAX0285-63-0212)

撮影・文/柳原久子

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